エンゲージメント・サーベイ導入の際にチェックしたい本、中原淳先生のご著書「サーベイ・フィードバック入門――「データと対話」で職場を変える技術 【これからの組織開発の教科書】」を書評します。今回は、第6弾です。エンゲージメント・サーベイのフィードバックをする際の具体的な方法論を紹介します。
エンゲージメント・サーベイは「心理戦」
著者の中原淳先生は、エンゲージメント・サーベイのフィードバックにおけるデータ提示は「心理戦」であると解きます。なぜならば、フィードバックを受ける側、従業員の方は下記のような様々な感情を抱いているからです。
- 不安:これから何が起こるのかに関する不安
- 恐れ:フィードバックの結果、どんな抱腹や攻撃が起こるかに関する恐怖
- 自己防衛:不安、恐れのために思わず自己防衛に走りたくなってしまう
- 希望:これまでの閉塞感が打開されるのではないか、何か良いことが起こるのではないかという希望・期待
この心理戦を制するためには言葉遣いも重要。
実際の会話の中で、「ネガティブ」や「悪いところ」といった悪い意味合いを持つ言葉を、極力使わないことです。
代わりに、「課題」、「気になるデータ」という表現を使うのがお勧めだそうです。
エンゲージメント・サーベイのフィードバックの際の具体的な4行動
より体系的には、エンゲージメント・サーベイのフィードバックの際の具体的な4行動を著者の中原淳先生は提唱されています。
- フォーカスをあてて、ストーリーづくりをする
- ベンチマークをつくる
- 自己を提示する
- データをけなして信じさせる
この中から、3番目の「自己を提示する」を見ていきましょう。これは、「自己開示」と同義と捉えました。すなわち、自分の考えや感情を積極的に反映していくことです。結論としては、
結局はケース・バイ・ケースの対応を行うほかはない
と著者の中原淳先生は提唱されていますが、ここには若干異論を唱えたくなります。
というのは、本書においてはエンゲージメント・サーベイのフィードバックは現場のマネージャーが行うという前提に立っているからです。たとえば課長なら課長の職にある人が、フィードバックにおいて中立的な立場をとり、「エンゲージメント・サーベイではこんな結果が出ました。皆さん、どう考えますか?」と評論家に徹するのは、現実的にはあり得ないでしょう。そんな「お花畑ファシリターター」のような態度では、課員から、「ウチの課長、頼りないよな」と一気に信頼を失ってしまいます。むしろ、当事者型ファシリテーターとして、自らの感想を共有し、組織をあるべき方向に導くのが求められていると感じました。
あえてエンゲージメント・サーベイの結果をけなす
上述のエンゲージメント・サーベイの具体的な4行動の中から、4番目の「データをけなして信じさせる」も面白い視点なので見てみましょう。ここはまずは論より証拠、具体的なセリフを引用してみます。
データはデータですが、それも現実かもしれません。しかし、現実をどのように受け取っているのか、それが本当にどんな課題なのかを、みんなの力で考えていくことが必要です。皆さん、どう思いますか?
要するに、データを過度に自分ごととして捉えることによる自己防衛を避けて、真剣かつカジュアルに考えてもらうための心理戦を制するタクティクス<戦術>と捉えました。