エンゲージメント・サーベイ導入の際にチェックしたい本、中原淳先生のご著書「サーベイ・フィードバック入門――「データと対話」で職場を変える技術 【これからの組織開発の教科書】」を書評します。今回は、第9弾。事例を紹介します。
エンゲージメント・サーベイだけに頼らないパナソニック
パナソニックでのエンゲージメント・サーベイは年に1回。「成長を実感しているか」「上司との関係はどうか」などの項目を聞く意識調査です。とはいえ、面白いのはこのエンゲージメント・サーベイのみに頼らないところです。定量的なデータは重要ですが、同時に「肌感覚」も大事にされているとのこと。何か課題が提起されたときには、
組織の担当者とじっくり話します。さらに、現場の社員にインタビューをすることもあります。インタビューで、その人の感情や肌感覚といった定性的な情報を聞き出すと、定量的なデータだけでは見えない状況が見えてきます。
このアプローチは、極めて丁寧だと感じました。もちろん、パナソニックのような大企業で人員的な余裕があるからこそできるのでしょうが、データ「だけ」に頼らないという姿勢は見習いたいものです。
「ガチ対話」を指向するパナソニックのエンゲージメント・サーベイ
本書の全体を貫くフレームワークは、
- サーベイによる見える化:自分の職場・チームの問題を可視化する
- ガチ対話:サーベイによって明らかになったデータに現場の人々が向き合い対話を行う
- 未来づくり:自分たちの将来のあり方を自分たちで決めてアクションプランを得る
というものでした。とはいえ、「ガチ対話」を実現するのは簡単ではありません。このリアリティに基づいて、「どうやったらホンネの対話を引き出せるか」を工夫しているところがパナソニックのエンゲージメント・サーベイの特徴です。
具体的には、オフサイトミーティングを実施しているとのこと。これは、ふだんの職場を離れた場所で、仕事以外のことを様々語り合うというものです。これによって、本音を言うことへの「恐れ」を払拭することを狙っているとのことです。
簡単ではなかったパナソニックにおけるホンネの対話
ホンネの対話をするために、パナソニックが行っている取り組みでもうひとつおもしろいと感じたのが、「自慢大会」です。エンゲージメント・サーベイの結果を部署ごとに比べると、どうしてもスコアが低くなる部署が出てきます。そのようなところで、「ガチ対話」を行うのは難しいものでしょう。これを打破するために取り組んだのが、「輝く瞬間」を話し合うことだそうです。
この部門は全国にショウルームを展開しているので、「そのショウルームの仕事をしていてよかったこと」、「自分たちの職場の素晴らしいところ」について皆で「自慢大会」をしたのです。
とのこと。もちろん、それは単にいい気分になるためやガス抜きのためではありません。
職場をよくするためには、ダメなところを改善するよりも、長所をより伸ばした方がいい。そのためには、まず長所を見つけ出すことからはじめよう、と考えたのです。
と言う戦略的な発想に裏打ちされていたのが印象的です。
いずれにしても、
データを集めて組織開発を行ううえで、もっともマズいのは、「まったく手応えを得られない」ことだと思います。
と言う提言には説得力を感じました。