「労働組合の存在意義は何か…」。そんな風に思うときに手にとりたいのが小松隆二先生の著書、「日本労働組合論事始」です。366ページにわたる労作の内容を紹介します。

労働組合の萌芽

著者の小松隆二先生は、日本における労働組合の萌芽は印刷工と鉄工にあると言います。遡ること1884年(明治17年)、東京印刷会社の植字課長によって労働者の組織課が始まったのだとか。国会開設の勅諭があったのが3年前の1881年、第1回帝国議会が4年後の1890年ですから、いかに早いか想像つくでしょう。

もっとも、最初の試みは失敗に終わり、実際に組織化がなされたのが1889年の機械工たちによる「同盟進工組」の設立だそうです。これは、

しっかりした規約を含む「趣意書」までつくった労働者組織で、近代的な労働組合とは言えないまでも、最初の労働組合的な組織、あるいは労働者団体と言ってもよいものである

とのこと。

ところが、この同盟進工組、あるいは翌1990年に印刷工により組織された「同志会」も、お金の問題で解散になってしまったのだとか。組合費として徴収したお金がうやむやになってしまったとのことで、日本においては労働組合とお金の問題は切っても切れないところなのでしょう。

労働組合という用語の定着

労働組合という概念自体、明治維新における他の制度と同様欧米から「輸入」されたものです。もっとも、「労働組合」という擁護に至るまでは変遷がありました。そもそも、最初に紹介されたのは、ウィリアム・エリスの入門書の翻訳の際ですが(「経済小学」、1867年)、訳者の神田孝平氏は、その時点では労働組合がなんたるか法海に苦しんだそうです。その後研究が進み、福澤諭吉氏による「民間経済録」においては、

労働者を<力役者>とよび、その中でホワイトカラーの<心労>とブルーカラーの<力役>の2つに分けて理解するほどになる

と、徐々に理解が進んだとのこと。

名称も、「職工相結」、「職工連合」、「職工組合」、「同業組合」などを経て、ようやく「労働組合」というのが定着したそうです。

幻の幸徳秋水全集

本書の面白いところは、歴史上の人物である幸徳秋水にも触れられているところです。とくに、その思想を結実した「幸徳秋水全集」は、労働組合の思想的バックボーンともいうべきものですが、内容が内容だけに時の政府から弾圧を受けたとか。おかげで、幸徳秋水全集は稀覯本と呼ばれるように、手に入りにくいのだとか。その経緯が本書においては88pから143pにかけて、50ページほどの分量を割いて詳しい解説がなされています。


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