いわゆる「お役所」でもプロジェクトで仕事をすることが増えているそうです。ただ、あまりフットワークが軽いイメージってないですよね、お役所とか役人さんって。そうすると、プロジェクト・マネジメントとか大丈夫なのかなぁ、と思ってしまいます。そんな疑問を解消してくれるのが、矢代隆嗣の著書「自治体プロジェクトマネジメント 」です。
目次
公共分野でも求められるプロジェクト・マネジメント
まずは公共分野におけるプロジェクト・マネジメントの必要性。たとえば、最近話題の空き家問題。行政が率先して取り組むべき課題ですが、
関連しそうな部署が集まって検討を始めても、どの部署も腰が引け、担当を押し付け合い、議論が進まない
状況がありがちだそうです(8p)。あるいは、マラソン大会や地元産品の販促などを行うイベントで、
準備の途中で開催当日に間に合わないことが明らかになり、急きょ、他の部門に協力を依頼せざるを得なくなったり、開催日前の1週間は徹夜続きとなってしまう
のだとか(7p)。
このような状態を乗り越えるためには、やはりしっかりとしたプロジェクト・マネジメントが必要なのです。
プロジェクトの7つの特徴とルーティン業務との対比
では、そもそもとしてのプロジェクトは何なのか、から本書は時はじめます。ここら辺は、プロジェクトになじんでいない人にはありがたいところです。具体的には、下記7つの項目がプロジェクトの特徴とのこと。
項目 | 対比としてのルーティン業務 | プロジェクト特性 | 陥りやすい落とし穴とその原因 | 解決の方針 |
問題解決性 | 事前に目的・目標(アウトプット)が設定されている | プロジェクト毎に目的・目標(アウトカム)が異なる |
目指す目的目標をアウトプットで設定してしまうこと |
解決したい問題を明確にしそれを実現できた目的を状態を目標とすること |
手段の独自性 |
目的達成方法は定型化されている |
目標達成方法はプロジェクトごとに独自に決める必要がある |
目的目標に適していない方法が行われていること |
プロジェクト対象や環境適切に分析した情報を元に手段を設計すること。実施中も状況にあって手段を見直すこと |
チーム活動性 |
既存・単独組織で展開し他部門との調整は少ない |
プロジェクトごとに多彩な人材団体がチームとして編成される |
チームとしての一体感や協力体制が築けない、場合によってはコンフリクトが生じてしまうこと |
相互理解信頼関係をベースに相乗効果を生み出すチームを形成し運用すること |
多彩なステークホルダーとの関係性 |
関係部門がすでに明確であり限られている |
多彩なステークホルダーが存在し直接間接の影響を受ける |
ステークホルダーからの非協力的姿勢や過度の介入に振り回されること ・ステークホルダーへの状況報告を怠ること |
ステークホルダーとの良好な関係を作ること |
不確実性 |
不確実的な要因が少ない。問題が起きても過去の経験で対応が可能である |
不確実的要因が多く問題が起きやすい。また発生する問題はプロジェクトごとに異なるため対応が困難である |
トラブル・事故(想定できたものも含める)の発生により多大な損失をこうむること |
想定されるリスクを洗い出し事前に予防することや発生した時の対処法を準備すること |
有期間性 |
計画的に活動しやすい。問題が生じても過去の経験から納期対応を柔軟に行うことが可能である |
新たな取り組みであり活動の計画化や進捗管理に困難さ伴い、納期対応は容易ではない |
作業遅延が発生すること |
きめ細かい活動スケジュール管理を行うこと |
制約性 |
既に制約に対応しながら行われている |
プロジェクトごとに異なる制約の中で実施が求められその対応が難しい場合がある |
予算オーバーや規制が障害で活動が中止すると ・制約を意識しないで活動してしまうこと ・制約内でのやりくりをしないこと(っできないこと) |
制約を把握しそれに対応する(やりくりする)こと |
プロジェクト・マネジメントのテーマ体系と7箇条
上記のようなプロジェクト特有の難しさを乗り越えるためには、プロジェクト・マネジメントも体系立てて考える必要があります。それが、下記のテーマ体系と7箇条です。
- 目的面
- 目的・目標志向マネジメント
- 手段面
- 目標実現の手段展開マネジメント
- チーム力形成マネジメント
- ステークホルダーとの連携性マネジメント
- リスク対処マネジメント
- 制約面
- 納期(スケジュール)マネジメント
- 制約内展開マネジメント
最後に出てくる「制約内展開マネジメント」は聞き慣れない言葉ですが、これは
予算やプロジェクトに関連する法規制や組織内制度・ルールなどプロジェクトを推進するための制約を確認しておく
とのことです(p61)。仮に予算面に絞るとすると、事前に予算を獲得し、プロジェクト途中で予算が足りないことが分かったら追加調達、あるいはプロジェクトの撤退基準を明確にすることと理解しました。
著者は海外の知見も豊富なコンサルタント
本書は、全体としてきわめて体系化されてまとめられていて、公共部門の人でなくてもプロジェクト・マネジメントに携わるならば一読の価値があると感じました。ちなみに著者の
矢代隆嗣先生は、コンサルティングファームで組織・業務・人材構造会改革、行政評価などのコンサルティング業務に従事された後、株式会社アリエール・マネジメント・ソリューションを設立し代表取締役に就任された方です。学歴も、ニューヨーク大学行政大学院のMS(国際公共機関マネジメント)修了、エディンバラ大学経営大学院(MBA)修了ということで、きっと本書にも海外の知見が多く盛り込まれていて、そのせいで体系立っているかと思いました。
画像はアマゾンさんからお借りしました