「会社内のチームビルディング、役職ごとに取り組み方が違うのでは?」そんな疑問をお持ちの方に読んでいただきたいのがリンダ・グラットン先生とタマラ・J・エリクソン先生の論文、「協働するチームの秘密」です。
チームビルディングのためのシグネチャー・プラクティス
リンダ・グラットン先生、エリクソン先生が、チームビルディングにおけるシニアマネージャーの役割として進めるのが「シグネチャー・プラクティス」というものです。
いわく、
その事業環境にふさわしい働き方のことで、インパクトがあり、およそ他社には模倣できない
ものとのこと。この説明だけではピンとこないと思いますので、同論文で紹介されているロイヤル・バンク・オブ・スコットランドの事例を挙げてみたいと思います。
それが、巨額の費用をかけた本社ビルの建設というもの。3億5千万ポンドと言うから、455億円という、ビックリするような金額ですが、2005年にエジンバラ市郊外に一大都市のようなオフィスを建てたと言うことです。
これによって実現できたのは、
密接な人間関係を築き、これを確固たる足がかりにしてコラボレーションを推し進め、その任務を迅速に遂行していた
とのこと。
チームビルディングのための8つの取り組み
上述のシグネチャー・プラクティスを含む、チームビルディングのための8つの取り組みというのをリンダ・グラットン先生、エリクソン先生は同論文で解説しています。
- 「シグネチャー・プラクティス」に投資をする
- コラボレーションの基本を示す
- 「ギフトカルチャー」を生み出す
- コラボレーションスキルを習得させる
- 連帯感を育む
- 仕事も人間関係も大切にするチームリーダーを選ぶ
- 息の長い人間関係を築く
- 個人の役割は具体的に、任務の遂行方法については曖昧にしておく
そして、本論文の面白いところは、組織の中の職階によって、とくにどの取り組みに力を入れるべきかを示唆しているところです。たとえば、シグネチャー・プラクティスは、経営陣にしかできないことというのは想像できるでしょう。他にも2番目と3番目は、経営陣の役割としています。一方で、4番目5番目は人事部の役割、6番目7番目8番目はチームリーダーの役割としています。
6番目の「仕事も人間関係も大切にするチームリーダーを選ぶ」というのは人事部の役割のようにも見えますが、むしろチームリーダーになった人たちがその両者を大切にすることの重要性が説かれています。いわく、
我々が調べた55チームの中でもっとも生産的かつ革新的と言えたのは、概して人間関係重視と任務重視の姿勢を兼ね備えたリーダーのいるチームだったのである。このようなタイプのリーダーは、プロジェクトの途中でリーダーシップスタイルを変える。最初のうちは目標を掲げたうえで、任務について話し合ったり、一人ひとりの責任を具体化したりと任務重視のリーダーシップを用いるが、プロジェクトのある時点から人間関係重視のリーダーシップに切り替える。その「ある時点」とは、チームの目標や各メンバーの責任が明確になった時期であり、また知識の共有をめぐって最初の対立が起こる時期でもある。
これはなかなか示唆に富んでいて、タックマン教授が提唱した「チームの5段階」と、ハウス教授が提唱した「リーダーシップのパスゴール理論」を統合するものと言えるのではないでしょうか。
大事なのはシンボル性
冒頭のシグネチャー・プラクティスに戻りましょう。「455億円をかけたオフィス」と聞いて、そこまでお金はかけられないと感じた方もいるのではないでしょうか。
ただ、本論文を読んでいて思ったのは、むしろ経営陣の「姿勢」の問題であるということです。
英語のシグネチャーは「署名」を指しますから、経営陣が契約書に署名をするような確固たる意志を示す出来事(プラクティス)が、必要ということなのでしょう。
もちろんお金をかけられればそれにこしたことはないのでしょうが、大事なのは、そのシンボル性と理解しました。
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