「外資系で他の国の人と一緒に働く際に、チームワークが難しい…」。そんな悩みを持つ方が手にとってしまうかもしれないのがジーン・ブレット教授、クリスティン・ベーファー准教授、メアリー・C・カーン准教授による論文「多国籍チームのマネジメント」です。
欧米人も感じている日本人のチームワークの問題
本論文で面白いと思えたのは、欧米人から見て日本人の扱いにくさが描かれているところです。国によるカルチャーの違いというと得てして日本人の視点が中心になり、「海外の人とのチームワークは難しい」となりがちですが、逆に海外の人が日本人に対して不満を持つ場合があるのは、当たり前といえば当たり前ですが発見です。いくつか描写を借りてみましょう。
例えば欧米人同士が交渉するとき、「AとB のどちらが良いか」と質問し相手の意向や優先順位について重要な情報を得る。ところが間接的コミュニケーションを使う文化では、例えば相手が提示する妥協案の変化、あるいは変化がないことから、相手の意向や優先順位を推測しなければならないことがある
これは、イメージとしてはよく分かります。日本人同士では、コミュニケーションの際に「忖度」できるのが正しいとされていますが、欧米人相手には通用しないことがあります。あるいは、
チームを率いるインド人マネージャーは同僚のシンガポール人とともに、同じチームの日本人メンバー二人と話をすることにした。その目的は、日本人メンバーに担当業務をしっかりやらせることだった。二人の日本人メンバーは口では「しっかりとやる」というのだが、その後もあまり改善が見られなかった。インド人マネージャーはその日本人メンバーの上司に相談することも考えた。しかし、それは得策ではないと判断し、問題の二人だけではなく、日本の it チーム全員のコンセンサスを図ることにした。
欧米人、あるいは同じアジア人といってもインド人の様な人には、日本の「コンセンサスを図る」ことに重きを置くカルチャーに注意を払わなければならなかったと言うことなのでしょう。
多国籍チームワークの四つの問題
上記を始め、多国籍チームの中でチームワークを阻むのは大きく下記の4つに分かれると著者は解説します。
- 直接的コミュニケーションと間接的コミュニケーションの差
- 英語の問題
- 組織階層と権限の違い
- 意志決定ルールの不一致
三番目の組織階層と権限の違いに関しては、
多国籍チームによくある問題は、組織がフラットであることだ。しかし、相手の地位によって接し方を変える文化圏で育った人は、フラット組織に違和感を覚える
との指摘がされています。日本人も縦型の年功序列の方が居心地の良さを感じるともいわれており、この指摘は腑に落ちます。
多国籍チームビルディングの四つの戦略
上記の難しさを乗り越えて多国籍チームでもチームビルディングを進めるために、著者は下記の4つの戦略を提言しています。
- 適応:チーム内に文化的な差異があることを公式に認め、それを意識しながら仕事を進める
- 組織構造への介入:チームの形態を変える
- 組織運営への介入:チームの規律を早期に設定する、またはより職位の高いマネージャーが関与する
- 放出:どの対策でも効果がなかった場合、チームメンバーを放出する
4番目の放出というのはドラスティックな気がしますが、これが欧米流のリアルな感覚なのでしょう。民族間、宗教間の対立を数多く経験している彼らにとっては、どうしても折り合えないものは折り合えないというが根底にある気がします。
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