「ウチの会社、チームワークは悪くないけど、意志決定に時間がかかる…」。そんな悩みを持つ方にお勧めなのがボブ・フリッシュ氏の論文、「決められないチームへの6つの対処法」です。
チームの意志決定を妨げる投票のパラドックス
著者のフリッシュ氏は、「決められないチーム」は普通のことであると、「投票のパラドックス」というキーワードで説きます。これは、もともとはフランスの数学者ニコラ・ド・コンドルセが築き、後に経済学者ケネス・アロー氏が証明したもので、
三人以上から成る集団が、、3つ以上の選択肢に優先順位をつけようとするとき、異なる選択肢を選ぶ複数の多数派が形成されてしまい、集団として1つの選択肢を選べない
と言う状況です。詳しくは、本論文が掲載されている書籍「ハーバード・ビジネス・レビュー チームワーク論文ベスト10 チームワークの教科書」の202pを参照ください。
この論文が秀逸なところは、明示的に「3つ以上の選択肢に優先順位をつけ」るとき意外にも、上述の投票のパラドックスは起こると見抜いているところです。例えば、役員会で「A市場に参入すべきか」が議論されているとしましょう。単純に考えると、選択肢は「参入すべき」、「参入すべきでない」の二択ですが、実際のところは「様子を見て参入する」、「テスト的に参入する」など、3つ以上の選択肢が隠れているものです。結果として「投票のパラドックス」により決められなくなってしまうのです。
チームとして意志決定するための6つの対処法
では、どうやって投票のパラドックスを乗り越え、チームメンバーの誰もが納得する意志決定をするかと言うときに、著者のフリッシュ氏は下記の6つの対処法を提唱しています。
- 達成したいゴールを明確にする
- ゴールを達成するための選択肢に幅を持たせる
- 制約は壁なのかフェンスなのかを考える
- 早い段階でチームの選好を把握する
- 各選択肢の長所と短所を列挙する
- 一歩引いて新しい案を考える
チームビルディングのためには早い段階での投票
6つの対処法の中で、4番目の「早い段階でチームの選好を把握する」をより詳しく見てみましょう。
著者のフリッシュ氏は、
裁判における陪審員のように、エグゼクティブチームは、議論の最初の段階で拘束力のない投票を行って、自分たちが全体としてどのような位置にあるかを感覚的に把握することができる。
と説きます。
「陪審員」と聞いて思い出すのは有名な映画「12人の怒れる男」。確かにストーリーの最初の方で多数決をとっていた記憶があり、主人公を除く残りの11人が「有罪」として、そこから議論が始まりました。
あの映画自体は事実(ファクト)に基づかない空論をしているだけなので噴飯物ですが、意志決定の場の早い段階で投票をするというのは時間の節約のためにも大いに有効な方法だと感じました。
ちなみに、本書は英語における「Devil’s Advocate (デビルズ・アドボケイト、悪魔の代弁者)」と言う概念についても詳しく説明してくれています。これは、会議の場でグループシンク(Group Think: 集団浅慮)に陥るのを防ぐため、合意事項に何でも反対する人を刺しますが、この起源は
カトリック教会が聖人に列する人物を審査する際に、候補者について否定的な見解を述べるために指名された健治に由来する (「列聖調査審問検事」)
のだそうです。
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