飛行機の機長(キャプタン)にリーダーシップが求められるのは言うまでもないでしょう。それを、飛行機事故防止という観点から解説しているのが、村上、齊藤両先生の著書、「機長のマネジメント―コックピットの安全哲学「クルー・リソース・マネジメント」」です。ビジネスパーソンにも役立つそのノウハウを解説します。

リーダーに求められる適切な「権威勾配」

機長に求められるリーダーシップの難しさはその二面性にあります。一方で、クルー(乗組員)を率いて乗客の安全に責任を持ちつつ、時にはエンジントラブルなどの不測の事態への対応も行うなど「強い」リーダーシップが求められます。ただ、あまりにも「強面」だとうまくいかないのだとか。

というのは、飛行機のような複雑なシステムの場合、機長一人で判断できることは限界があるから。むしろ、副操縦士や機関士など部下から的確な進言をもらいながら、「チーム」として運航をする必要があるのです。

この際、あまりにも高圧的な機長だと部下から進言しにくくなり、結果として重大事故につながってしまうとか。したがって、部下の意見をよく聞くというリーダーシップスタイルも求められるのです。

この2面性をうまく説明しているのが「権威勾配」というキーワード。英語で言うと、Trans Cockpit Authority Gradient (TAG)と言うそうですが、組織の中の上位者と下位者の権力格差(偉さの程度)と言う概念です。権威勾配が急ということは、坂道で言うと上と下の差があるわけですから、機長はとっても偉い人、一方で副操縦士はぺいぺいで、とてもじゃないが機長にもの申せないという状況です。と言って、権威勾配が緩やかすぎるのもダメだそうで、友達組織のような状況では、

「キャプテンがその権限を行使できなくなる」

ということで、たとえば急場の意志決定などがうまくいかないのでしょう(228p)。

コクピットクルーが引き起こす大規模事故

先ほどの権威勾配も含め、人間的なエラーに基づく航空機事故を防ごうというのが、書名にもなっている「クルー・リソース・マネジメント」と言う考え方です。

その起源は1988年まで遡り、当時どうしても航空機事故を減らせなかった国際民間航空輸送協会(IATA)から、

どうしても減少しない航空機事故の内の約80パーセントが、コックピットクルーの行動とパフォーマンスにその要因がある

と結論づけられたのです。

これを改善するための訓練技法が開発され、CRM (Cockpit Resource Management あるいは Crew Resouce Management:クルーリソースマネジメント)と呼ばれるものに結実したのです。なお定義としては、

(コックピットにおいて)利用可能なすべてのリソースを、最適な方法で最も有効に活用することにより、クルーのトータルパフォーマンスを高め、より安全で効率的な運航を実現することを目的とする考え方

となります。

ちなみにここで言う「リソース」は、ヒューマン・リソース(人的資源)だけでなく、ソフトウェア、ハードウェア、外部環境などを含めたトータルのリソースを指すことになります。

内省が中心のクルーリソースマネジメント?

CRMの具体例は、主に内省が中心になっているというのが本書で解説されているところです。たとえば、「気づきの輪 (Awareness Wheel アゥエアネス・ホイール)」は、感覚、思考、感情、願望、行為からなる自分を見直すためのチェックリストで、ミネソタ大学家族研究センターで、S・ミラーやD・ワックマンによって開発されたものを、クルーリソースマネジメントにも採り入れられたとのこと。

あるいは、交流分析 (Transactional Analysis: TA)による四つの人生態度(ライフポジション)、すなわち、

I am not OK, and You are not OK

I am not OK, but You are OK

I am OK, but You are not OK

I am OK, and You are OK

のどれを志向すべきかと言う考え方。

はたまた、ジョハリの窓など、自己を内省して、言動をどう変えるかを考えるのが中心です。

クルーリソースマネジメントの進歩が航空機事故の減少に寄与したことを考えると、これはこれで効果はあると思うのですが、さらにコミュニケーションの具体的なノウハウが掲載されていると、本書が役立つのではないかと思いました。


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