「部下が使えない…」というのは多くの上司に共通する悩みでしょう。それを解消する方法を教えてくれるのが、篠原先生のご著書「自分の頭で考えて動く部下の育て方 上司1年生の教科」です。ちなみに、もとになったのはネットで話題になった「「指示待ち人間」はなぜ生まれるのか?」。
これを上司視点でまとめたのが本書です。内容をザックリとまとめると、コーチングと行動分析学を使って部下の自発的な行動を引きだそう、となります。それを、具体的な事例とともに紹介してくれているのが本書の魅力です。
ちなみに、著者は国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の上級研究員。もちろん研究がメインの仕事だと思うのですが、研究室のマネジメントもしている中で、ビジネスセンスも磨かれたということなのでしょう。また、学生時代に自ら塾を主宰されていたとのことで、100人の生徒を教えた経験ももとになっているそうです。
目次
叱るリーダーが指示待ち部下を生み出す
著者が自ら行っているマネジメント手法が、
- 私の考えを折に触れて伝える
- 後は自分で考えて行動してもらう
- 失敗(=私の考えとズレた処理)があっても「しょーがない」とし、改めて私の考えを伝えて次回から軌道修正してもらう
というもの。ここでのポイントは、仮に失敗があっても叱らないこと。厳しく叱ると部下はおびえてしまい、その結果上司の顔色をうかがう指示待ち人間になってしまうので。
ちなみに、このようなやり方を思いついたきっかけが、子供を教えた経験だそうです。なんでも、あるとき「ものわかりはいいけどおっちょこちょい」の子供の指導を引き受けたそうで、こういう子供は懇切丁寧に教えると、「分かったつもり」になる懸念があったそうです。
それを乗り越えるために考えたのが、「教えない」学習法で、子供が自ら考えることで正解までたどり着く手助けをしてあげた方が学習効果が高まったとのことです。これをビジネスに転用して、指示しない部下の操縦法となったのでしょう。
部下にルーチンの仕事を任せる9ステップ
もう少し体系的に部下への教え方をまとめたのが、下記の9ステップです。なお、これは、比較的頻度の高いルーチンワークを想定しています。
- まずこれわかるかなと尋ねる
- 自分が見本をやってみせる
- 本人に実際に一回転だけやってもらう 途中で口を出さない
- 作業終えたと言ったら「本当に忘れてるのない?」と注意を促す
- できているのを確認したら、作業が終わったら声をかけてと言い残してその場を離れ残りのすべての作業やってもらう
- 「終了しました」と報告してきたら、出来をチェック。事前に伝え損ねていたことがあれば謝罪しもう一度やり直してもらう
- 問題のない状態になったのを確認できたら、教える作業は一旦終了。以後その作業が発生するたびに何度も作業を繰り返してもらう
- 慣れた頃に手順をきちんと覚えているか成果物に問題がないか再チェックする
- 手順もすべて頭に入り成果物も問題がない状態が繰り返されたらその作業はもう任せてもいい状態に入る
確かにこれならば、たとえば、何かをエクセルに入力するような作業的なものであれば、指導は簡単にできそうです。
名将山本五十六の「あの」言葉には続きがあった
ちなみに、上記2番目の「見本をやってみせる」というところで、戦前の名将山本五十六の名言、
やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、 ほめてやらねば、人は動かじ
というのを思い出した人もいるでしょう。そして、著者曰く、この言葉には続きがあって、
話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず
さらに、
やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず
となるそうです。
部下の育成は蔵・修・息・游で
なお、これらの部下へのかかわり方を、著者の篠原先生は「蔵・修・息・游」という言葉でフレームワーク化しています。これは、古代中国の儒学書、「礼記 (らいき)」の、
君子の学に於けるや、焉(これ)を修め、焉を蔵し、焉を息し、焉に游す
に由来する言葉のようで、著者の説明では、
覚えようとするだけで必死になる時期が蔵。ならい覚えたことをマスターしようと繰り返し練習に励む段階が修。無意識に技を発揮できるレベルに達するのが息。完全にマスターした技術で、遊びにも似た新たなチャレンジをするのが游
となります。
部下に成功体験を積ませるリーダーの5ステップ
では、もっと複雑な業務の場合は?
- その時には少しだけ「背伸び」させることが重要、と著者は説きます。
- 前段のステージの仕事送り返させ充分基礎能力を積み上げる
- 次のステージに進む技能が育ったと見込みが立ったら初めて次の業務に「ちょっと背伸び」させてみる
次の業務を一度上司がやってみせる - 上司の見守りの中でいちど部下にやらせてみる。 極力口を出さない。あまりじっと見つめずほかの業務をやりながら見守る。
- いつでも上司に相談できる状態を用意した上で部下1人にやらせてみる
単純にマネするだけではリスクもある?
様々な役立つテクニックが紹介されている本書ですが、気になったのは著者がところどころ差し挟む、自分を卑下する表現。
- 私はとてもどんくさいので豊富な失敗体験がある
- 私は親戚の中でも、最も才能がないと自他共に認める凡庸な人間だった
などなど。いや、でもそんな人は政府機関の上級研究員になれませんから。むしろ、世間一般では優秀な方でしょう。なので、実は本書に書かれたテクニック以外にも様々なことを考えていそうで、凡人が単純に本書に書いてあることをマネするだけでは、うまくいかないリスクもあると感じました。
たとえば、「上司は部下より無能でかまわない」(56p)などは、この著者だからこそたどり着いた考え(境地)で、一般のビジネスマンが真似できるものではないでしょう。
画像はアマゾンさんからお借りしました
- 投稿タグ
- ★★★★☆