「研修でやったことをどう定着させるか…」。そんな問題意識をお持ちの人事担当者ならば手にとりたいのが中原淳先生などの著書「研修開発入門 「研修転移」の理論と実践」です。今回は第2部、「研修転移の実践事例」に紹介されているニコンさんのOJT担当者研修の事例を紹介します。
ニコンにおける手厚いOJT担当者研修の背景
ニコン、と聞いたとき多くの人が思い浮かべるのはカメラでしょう。ニッコールというブランドで知られ、多くのファンを獲得していますが、実はその売り上げ構成を見ると、映像事業の比率は年々落ちています。変わって伸びているのが精密事業やヘルスケア事業。誤解を恐れずに言えば、ニコンはもはやカメラのみのメーカーではなく、精密機器を企画・製造する事業体と言えるでしょう。考えてみれば、スマホの普及によりカメラを取り巻くビジネス環境は大きな変化を迎えています。銀塩フィルムのメーカーであった富士フイルムが大きく事業転換を果たしたように、ニコンも変化を遂げていると考えられます。
この変化はビジネスの現場にも大きなインパクトをもたらすと考えます。たとえば、新入社員がカメラに憧れてニコンに入社したとしても、配属先は映像事業とは限らないわけです。そのようなとき不満を持たずに割り当てられた仕事に邁進してくれるようにするためには、オンボーディング、すなわち新入社員の受け入れ体制が重要であるのは言うまでもありません。これを実現するのが、ニコンにおける「指導員制度」です。
実はこの指導員制度、40年以上前から続いてきた伝統ある仕組みですが、ビジネスの変化から要請を受けて、2008年頃から変化を迎えているそうです。その一つが、属人的な、すなわち指導員によって異なる教え方を画一化したことです。このため、指導員、あるいは一般的なビジネス用語で言えばOJT担当者には事前に手厚い研修がなされています。
ニコンのOJT担当者は課長に事前インタビューする
ニコンのOJT担当者の専任に当たって面白いのは、OJT担当者自身が課長をインタビューすることです。
- 自分を指導員(OJT担当者)に任命した理由
- キャリアパスを通じて描く1年後の新人の姿
- 1年間で習得すべき知識・スキル
などがその内容です。
これによって、上司、もしくは会社側とOJT担当者のすりあわせができますし、同時にOJT担当者自身にとっても成長の機会になり、組織全体での人材の底上げが図れると言うことでしょう。
ニコンのOJTにおける人脈マップ
さらにニコンのOJTで面白いのが、「人脈マップ」の作成です。これは、新人が仕事でかかわる組織と人を図で示したもので、とくに決まり切ったフォーマットがあるわけではなく、OJT担当者が独自で考えるものです。本書141pに掲載された写真を見ると、ネットワーク図やベン図のような成果物のようです。
この背後にあるのは、OJTはOJT担当者のみの仕事ではなく、職場全体で行うべきという発想でしょう。実際、研究結果によっても、その方が効果が上がることが検証されています。なぜならば、
- 質問できる相手が増えることで、業務における疑問点が解消しやすくなる
- 職場メンバーとの接点があることにより、多様な仕事のやり方を目にする機会が増える
ことが期待できるからです。
画像はアマゾンさんからお借りしました。