「うちの部署、チームワークがないんだよなぁ…」。そんな悩みの参考になるかもしれないのが安部敏樹先生のご著書、「いつかリーダーになる君たちへ 東大人気講義チームビルディングのレッスン」です。

チームワークのカギはボトムアップ型コミュニケーション

書名にあるとおり、著者の安部敏樹先生は東大で学ばれた方。大学院の修士論文で、チームワークとチームの成果がどう関係しているかを測定した実験が面白いのでまず紹介します(詳しくは本書40p)。

「実験」、と言っても研究室の中で行うものではなく、多くの人を巻き込んだ社会的実験です。インターネットで募集した参加者に、チームとなって「社会問題の現場を訪ねるツアー」を企画してもらったとのこと。そのうえで、期日通りに質の高いツアー企画を立てられたチームと、そうでないチームの違いを調べました。結論としては、成果を上げたチームは、

時間の経過とともにリーダーのコミュニケーション占有率が下がり、「ボトムアップ型」になっていったのです。しかも、エントロピーが高くなり、メンバー間のコミュニケーションの占有率が均等になっていきました。

ちょっと専門用語が入って難しく感じるかと思いますが、要するにリーダー←→フォロワーというコミュニケーションスタイルから、メンバー間でいい意味で「てんでバラバラ」にコミュニケーションをとるスタイルに変わっていったとのことです。

この実験をベースに、著者の安部敏樹先生は、そのようなボトムアップ型のコミュニケーションを誘発するチームビルディングがリーダーの役割と提唱されています。

もっとも、上記の実験は、安部敏樹先生ご自身が述べられているように、

今後さらなる実験により精緻に検証していく必要があるかもしれない

のは事実でしょう。たとえば、因果関係が整理されていないので、ボトムアップ型のチームワークがあったから成果が上がったのか、成果が上がったから(そのための企画のネタがあったから)チームワークが高まったのかは分かりません。あるいは、googleにおける「プロジェクト・アリストテレス」が示唆する心理的安全性のように、メンバーのスキルレベルがそろっているなど、ある前提条件が合ったからこそ成立したかもしれません。それでも、「いいチームとは」を考える際の大きな示唆になります。

チームビルディングの4原則

上記の実験やご経験を元に、著者の安部敏樹先生はチームビルディングの4原則として下記を提唱されています。

  1. ルールとマインドセットの共有
  2. 技法の共有
  3. 進捗状況と議論のステージの共有
  4. 意欲の共有

そのうえで、

ここであげた4つというのは、それぞれが独立したものではなくて、からみ合っています。だから、メンバーのやる気を出させようとリーダーがやみくもにがんばっても意味がなく、1から3までをきちんと共有すると、意欲も自然と上がってくるわけです。

とのこと。

これもまた示唆に富んでいて、世の中にはチームワークを高めるためにも「部下のモチベーションを上げよう」とがんばっている管理職は多くいます。そのために、「アメとムチ」、「馬ニンジン」のような試行錯誤をするわけですが、必ずしも馬ニンジンだけがモチベーションを高める手法ではありません。むしろ、外部的な仕事のやり方を定めることでチームワークが高める方が、より実務的なアプローチかもしれません。

チームビルディングだけでない本書の魅力

実は本書は、チームワークと表裏一体に、「リーダーがどのようなファシリテーションを行うべきか」の本でもあります。本書のパート1から章タイトルだけ拾っても、

  1. 成果を上げるチームとは?
  2. プレゼンテーション-伝える力を磨く
  3. ディスカッション-よい議論にはルールがある
  4. ブレインストーミング-批判厳禁、質より量
  5. ファシリテーション-思いやりで意見を引き出す

となります。また、著者の安部敏樹先生はビジネスで社会問題を解決する「ソーシャルビジネス」に関わっている方だけに、パート2以降はNPOを舞台にしたビジネスプラン作成の話になっています。そのような分野に興味がある方は、とくに本書からの発見が大きいのではないでしょうか。


画像はアマゾンさんからお借りしました。

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