「研修でやったことをどう定着させるか…」。そんな問題意識をお持ちの人事担当者ならば手にとりたいのが中原淳先生などの著書「研修開発入門 「研修転移」の理論と実践」です。今回は第2部、「研修転移の実践事例」に紹介されている三井住友銀行さんのプレマネジメント研修の事例を紹介します。

三井住友銀行におけるプレマネジメント研修

プレマネジメント研修は、管理職を展望する人材向けに、マネジメント意識の早期醸成を行うためのものです。三井住友銀行においては、というか、多くの日本企業に共通する課題ですが、30代後半から40代前半の人材が少なくなっているとのこと。これは就職氷河期に人員の採用を絞ったことに依るもので、人員構成のいびつさはなかなか解消できるものではありません。

結果として、若くして管理職に登用されるケースが多くなりますし、そうは言っても自らが丁寧に指導された経験がないので管理職になったときに問題を抱えてしまうケースが多いものです。これを解消するために、三井住友銀行では現場と研修をつなぐ面白い取り組みをしています。その大きな3本の柱が、

  • 課長観察
  • 課長インタビュー
  • 後輩指導

です。

この中から、後輩指導は分かりやすいものでしょう。もちろんふだんの業務の中でも行っている活動ですが、

自分の後輩に対して、自分がマネジャーならどのように指導するのが適切かを話し合い、その後輩の育成プラン、育成方針を考えるものです。

とより精緻にシミュレーションを行うものです。

三井住友銀行における課長観察研修

次に、課長観察を見てみましょう。その名の通り課長を観察するものですが、自身の上長ではなく別の部署の課長を観察対象としています。実際の課長がどのような活動をしているか、そして他部署や足してんではどのような状況なのかを知る機会として活かされています。

加えて、実は観察される側の課長に対しても良い効果をもたらします。

見られているからにはこうあらねばらならないという意識が芽生えることで、今一度課長としての自分を意識できます。自分のモチベーションも高まると言う意味では、観察される課長にとっても重要な機会です。

とのこと。

ちなみに、ここで観察した側から課長に対してフィードバックがなされると、いわゆる「リバースメンタリング」のような機能も果たすことになるでしょう。メンタリングでは、通常組織の上位階層の人間がメンターとなり、下位層のものに対してアドバイスを行うことになります。仮に社外にメンターを求めるにしても、多くはメンターの方が年上です。しかし、リバース、これを逆転させ、下位者が上位者に対してアドバイスを行い、最近で言えばデジタルへの取り組みや、若手社員の気持ちを代弁するなどは、組織開発の一手法として確立されています。

ちなみに、三本柱の最後、課長インタビューでは、自身の直属の上司もインタビューの対象に含まれるので、より多面的な観察につながります。

三井住友銀行におけるインターバル型研修

ここで、研修の全体像も見てみましょう。「インターバル型」と呼んでいますが、集合研修は10月と2月の2回に分けて、間隔を開けて実施されているとのこと。まずは10月の一次研修でマネジメントやを得たうえで、インターバル期間に上記の三本柱、部下指導、課長観察、課長インタビューを行うことになります。

実はこの流れは極めて妥当で、課長観察の際に「何を見るべきか」の判断軸がないと、その課長の行動の善し悪しが見えてこないものです。「理論上はこうあるべきだけど、実際には課長はこうしている。それはなぜかというと…」という想像が広がると、マネジメント理論を実務で活かすこつが見つかりやすいものです。

2月の2次研修では、課長観察の結果を他の受講者と共有したり、先輩との交流など、総まとめ的な内容とともに、ネットワークづくりが行われているとのことです。

中原淳他著、研修開発入門 「研修転移」の理論と実践
画像はアマゾンさんからお借りしました。