「研修でやったことをどう定着させるか…」。そんな問題意識をお持ちの人事担当者ならば手にとりたいのが中原淳先生などの著書「研修開発入門 「研修転移」の理論と実践」です。今回は第2部、「研修転移の実践事例」に紹介されているファンケルさんの事例を紹介します。
ファンケルにおける企業研修のキモは反転授業
まずは用語の解説から。「転移」という、ややなじみない言葉ですが、研修に関しては下記のように定義されます。
研修転移とは、研修で学んだことを企業の実践現場で活かし、成果をあげること。
この分野は欧米を中心に研究が進み、様々な知見が蓄積されています。ちなみに、研修そのものは研究者の間では下記の通り定義されています。
組織のかかげる目標のために、仕事現場を離れた場所で、メンバーの学習を組織化し、個人の行動変化・現場の変化を導くこと
では、この前提の下、ファンケルさんの事例を見ていきましょう。ファンケルさんと言えば化粧品やサプリメントの製造・販売をされていて、サプリメントのサブスク、「パーソナルワン」など面白いビジネスを展開されています。
研修に関しても、2013年には「ファンケル大学」を設立するなど力を入れていたそうですが、効果が上がらないという問題意識を持たれていたとのこと。これを2015年に抜本的に改革し、このときのキーコンセプトが「反転学習」です。すなわち、知識の伝達は事前の動画視聴によって行い、研修中はグループ討議などにより知識の定着や現場での活用の知見を身に付けることにしました。結果として、事後の確認テストの合格率が48.1%から79.3%に上昇するという効果があったとのことです。
ファンケルの研修では事前動画の作りにもこだわっている
気になるのが、事前の動画。
- 尺(長さ):短いものは5分以内。多くは10-15分
- 本数と分野
- 中途社員向け:知的財産権、独占禁止法、会社の数字の読み方、薬機法など50本
- 新任管理職向け:人事考課、労務管理、内部統制など96本
そして、研修受講者同士が「誰が、何本の動画を見たか」がお互いに分かるようになっており、それが視聴のモチベーションになっているとのこと。
そして、動画の構成も決まっており、下記の通りとのこと
- オープニング:なぜその知識について知る必要があるのか
- 実際の学習内容
- ここだけは押さえておきたい、という項目の小テスト
- エンディング:講義の簡単なまとめ
特に重要なのがオープニングで、これによって学ぶ意義を理解してもらうことにより、試聴の効果が上がるのでしょう。
ファンケルでの研修フォローアップ
ファンケルでの研修では、事後のフォローアップにも力を入れているとのこと。研修直後のアンケートも、「○○の内容は理解することができたか」と個別の項目ごとに理解していますし、事前動画もみる前とみる後の理解度の違いを3段階で数値評価しているとのことです。
そして、1ヶ月後にもアンケートを実施しているところがポイントです。これによって、下記の学習の4段階モデルのどこに当たるのかをチェックしているとのこと。
無意識的無能(知らないしできない):あることに関して何も知らず、知らないと言うことさえも知らない状態
意識的無能(知っていてもできない):あることに関して知識を得たが、技能が伴わずそれを実践することはできない状態
意識的有能(考えるとできる):あることに関してある程度はできるが習慣化されておらず、それを行うためには意識的に考え無くてはできない状態
無意識的有能(考え無くてもできる):意識なくても自動的にあることを実践できている状態
画像はアマゾンさんからお借りしました。
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