「研修でやったことをどう定着させるか…」。そんな問題意識をお持ちの人事担当者ならば手にとりたいのが中原淳先生などの著書「研修開発入門 「研修転移」の理論と実践」です。今回は第2部、「研修転移の実践事例」に紹介されているヤマト運輸さんの事例を紹介します。
ヤマト運輸におけるペア管理職研修
ヤマト運輸における管理職研修の特徴は、先輩と後輩がペアになって受講する形式にあります。これを理解するために、まずは簡単にヤマト運輸における職階を紹介します。
- ブロック長:自身も支店長としてひとつの支店を管理しながら、周りの4-6支店の支援や調整を行う
- 支店長:4-50人の部下を管理し、支店の予算管理、労務管理を行う(ドライバーとして現場には出ない)
- センター長:セールスドライバー6-9人を束ねる
- セールスドライバー:荷物の集配、営業
支店長が初任管理職であり、ペア研修にはブロック長もかかわってくることになります。なお、ブロック長は他支店の支店長の支援を行う位置づけであり、上司ではないとのことです。
ペア研修は2日間にわたって行われ、1日目はブロック長のみ、そして2日目は新任支店長と合同で行います。内容は、ブロック長の役割と指導方法の学習や、「ありたい姿」を描くこと、悩みの共有などからなります(詳しくは本書80pを)。
ヤマト運輸の管理職研修の事前課題
ペア研修に臨む新任支店長は、事前課題として自身の担当エリアの定量・定性データを記入したシートを提出することが求められます。そこには、下記を含めて様々な項目がまとめられているとのこと。
- 世帯数
- 法人数
- 面積
- 取扱店数
- 現在の取扱高
- セールスドライバーのフルタイム稼働数
- パートの人数
- 荷主の数
- 車両数
- 曜日ごとの車両の稼働数
- ライバル会社の稼働数と取扱高
- 労働時間
- 現状の問題点
そして、ペア研修2日目では、これらの情報に基づいてペアになったブロック長と話し合うことになります。その際、ペアとして組むのは、ふだんの業務で関わりのない人。その方が、従来の考えに縛られず新しいアイデアが出てくるというメリットがあります。
事後フォローが手厚いヤマト運輸の管理職研修
研修後のフォローが手厚いのもヤマト運輸の管理職研修の特徴です。具体的には、下記からなります。
- 研修直後、研修担当者との面談
- 研修後3-4ヶ月後の「現場実践度合い」アンケート、それに基づいた研修担当者との面談
- 人事制度「多面観察」との連動
この中から、「現場実践度合い」アンケートを見てみましょう。まずブロック長に対しては、支店長に対する支援行動ができているかが問われます。
- 支店長とのコミュニケーションの機会
- 耳を傾ける姿勢
- 萎縮しないような配慮
などの項目を、5段階で記入するというものです。一方の支店長は、ビジョン立案行動(ビジョン・情報収集)、研修で立てたビジョン実現の施策の実行度合いなどが問われ、
- 顧客状況・競合状況を把握できているか
- ビジョンはあるか
- そのビジョンを部下と共有できているか
を回答します。そして面白いのは、支店長からブロック長への「逆査定」項目も入っている点。先ほどのブロック長の回答項目、「耳を傾ける姿勢」などを回答することで、ブロック長にとっては自己評価と後輩からの評価のすりあわせができることになります。
人事制度と連動するヤマト運輸の管理職研修
多面観察との連動に関しても、本書では紹介されています。まず、多面観察ですが、下記の項目が評価されるとのこと。
- 計画
- ビジョン
- 情報収集
- ビジョン
- 道筋を示す
- 目標実現
- 実行
- 巻き込む、やりきる
- 指示伝達
- 顧客志向
- 部下配慮
- 模範行動
これらを5段階のアンケート形式で答えることで、能力開発を促そうという目的です。会社の人事からは、
研修の実践度合いの確認項目と能力開発項目の連動により、研修内容が根付くことが業務の改善、組織目標の達成にもつながるという統一性を持ち、研修内容が無駄になりません
と言うコメントがなされています。
画像はアマゾンさんからお借りしました。