「研修でやったことをどう定着させるか…」。そんな問題意識をお持ちの人事担当者ならば手にとりたいのが中原淳先生などの著書「研修開発入門 「研修転移」の理論と実践」です。今回は第2部、「研修転移の実践事例」に紹介されているアズビルさんの事例を紹介します。
アズビルで重視される人材育成
まずはアズビルの説明から。もともとの社名は山武(やまたけ)といい、創業100年を超える老舗企業です。産業オートメーションを事業の柱として、ファクトリー・オートメーションなどでは日本の先端を走っています。2012年に社名をアズビルに変え、グループ会社も含めてブランドを統合されたとのこと。
そして同じ年、社長直下の組織として「アズビル・アカデミー」を設立し、人材育成に取り組まれています。そこでは、
- 階層別・職能別研修などの教育機能
- 社員キャリアプランや職種ローテーション、社内公募制などのキャリアサポート機能
- 研修センター機能
という3つの機能を持たせているとのこと。
これは想像ですが、ファクトリー・オートメーションの分野というのは、単に技術力があれば良いというものではなく、お客様のニーズを的確に読み取り、それを実行に移す必要があると想像します。したがって、人材としては技術のみならず、対顧客の折衝力や調整力が求められるでしょう。それが、人材育成に力を入れる背景ではないでしょうか。したがって、本書においても、
研修内容は大きく2つに分かれています。一つはヒューマンスキルやマネジメントスキルと言った実務的な教育、もう一つは製品知識や技術のスキルトレーニングなどの技術訓練です。
と説明されています。
上長を巻き込むアズビルの研修
研修を定着させる工夫として、アズビルにおいては研修受講者の上長の巻き込みがされています。具体的には、アズビル・アカデミーの担当者から、「研修を受けるための動機づけを部下に行って下さい」との依頼がなされるとのこと。それも、漠然と「頑張って」ではなく、具体的な指示がされるとのことで、その例を引用します。
今回はⅢ等級で『ロジカルシンキング』を学ぶが、一つ上の、係長に当たるⅣ等級においてチームワークを用いて『対人対応力スキル研修』というものを行う。いままではスペシャリストとしてやってきたが、今後期待されるのは、上司、部下、同僚、それからお客様、みんなとうまくコミュニケーションを取り、チームワークを取っていくことが求められている
この引用が実際にアズビルの研修においてなされているものなのかは不明ですが、もう少しピンポイントで指示してあげた方が、部下の研修に取り組む心構えが定まるとも感じました。例えば今回ロジカルシンキングを学ぶのであれば、
今回は『ロジカルシンキング』を学ぶが、現場に戻って○○という行動を取るきっかけとして欲しい。なぜならば、□□さんの今の仕事においては、△△が必要と思うから
のような、これから学ぶ内容とそれを実務でどう活かすかに絞った方が適切ではないでしょうか。
理論的背景としては、米国の研究者メアリー・ブロードが提唱した「転移マトリックス(The Transfer matrix)」によると、研修の効果を上げるためには事前の上司のはたらきかけが重要であると指摘されています。ただ、漠然と、あるいは「あれも、これも」と並べ立てるだけでは意味がないでしょう。上司の「どのような」はたらきかけが必要かの研究が待たれます。
アクションプランで定着を狙うアズビルの研修
では、アズビルの研修における定着の工夫として、研修後も見てみましょう。それが、アクションプランの立案です。研修で学んだことを実務でどのように活かすかを構想し、これを上司と共有するとのこと。そして、3ヶ月後、6ヶ月後などにフィードバックを受け、その進捗状況の確認がなされます。
このような取り組みは研修で学んだ内容の定着とともに、社員のベクトルをあわせることにも役立っているとのこと。
研修は単にスキルの習得だけではなく、会社と自分のマインドや方向性のすりあわせという意味があります。研修後のアクションプランとフィードバックを継続的につないでいくことにより、アズビルの理念や取り組みをより浸透させ、めざす人材像に近づけていきます。
とのことであり、冒頭に紹介したアズビル・アカデミーの3つの機能の集約が見て取れます。
画像はアマゾンさんからお借りしました。