「研修で学んだことを頭の中に定着し、実務の現場で活かすにはどうしたらいいでしょう?」
法人研修を主催する人事の方から質問をいただくことがあります。
たしかに研修というのはそれ自体が目的ではなく、大事なのは「その後」。職場における行動が変わり、よりよい成果に結びつくことこそが重要です。
では、どうやって研修で学んだことを根付かせて、行動を変えていくか。
そのためのヒントをご紹介します。
キーワードのアンテナ効果
まずお勧めは、「キーワード」を普段から意識すること。ロジカルシンキングであれば、「サンマ感」や「MECE」、プレゼンテーションでは「T3ルーチン」や「アイコントロール」…。
私たちの研修では様々なテクニックをキーワードとともに紹介しています。
これを知ることで、まるでアンテナが立ったかのように感性が高くなります。
たとえば会議で自分が発言するとき「あれ?『サンマ感』があるのでは?」、プレゼンテーションでも「アイコントロールを効かせよう」など、ごく自然と自身の行動を振り返り、結果として行動が変わる効果があります。
これらのキーワードは「チェックリスト」としてお配りしますから、それを職場に持ち帰り普段から見直すことで、「無意識に行動を変えていく」ことが実現できるのです。
とはいえ、キーワードの意識は個人によるところも多いので、もう少し本格的に組織としてフォローアップをしたい場合にお勧めなのが…
研修の定着に関して、何でもご相談下さい。
研修定着事例集
- ファンケルでは反転授業によって研修効果UP
- ヤマト運輸におけるペア管理職研修では研修を他の人事施策と結びつけることでトータルな人材育成
- アズビル・アカデミーでは研修後のアクションプラン立案と進捗確認で定着を促す
- 三井住友銀行のプレマネジメント研修は、「課長観察」で理論と現場のギャップを埋める
研修定着のフレームワーク
研修で学んだ内容の定着は、学問的な研究もされており、下記は「研修転移の理論と実践」で中原先生らが提唱されているものです。(一部筆者修正)
研修前 | 研修中 | 研修後 | |
---|---|---|---|
受講者 | 事前課題 | 電話コーチングによる支援 | |
研修 | 現場のニーズ分析(その仕事の熟達者へのヒアリング) 経営陣や現場マネージャーの巻き込み |
双方向、学習者参加型の講義スタイル 研修後の行動目標設定 |
自己学習(見直し) 行動変化のリマインド 再トレーニング |
職場 | マネージャーによる支援 (研修の意義、受講者への期待を言語化) | 職場メンバーの協力 | 研修で学んだことの活用機会の提供 マネージャーによる支援 同僚による支援 |
なお、ここで提言されているのは全て欧米の研究によって裏付けられたものです。たとえば、右上(研修後、受講者)にある電話子コーチングによる支援を見てみましょう。これは、オーストラリアの研修会社レバー社の創業者エマ・ウェイバーによって提唱されたものです。ウェイバーは、研修効果が上がるも上がらないも受講者個人に依存すると指摘し、言わば「上司に頼るのは止めよう」、というスタンスで研修後の定着を考えました。結論が、研修講師とは異なる人が「転移コーチ」としてかかわることを提唱したのです。ここで、「コーチング」と言っているところがポイントで、コーチングの基本理念である「答えは相手の中にある」をベースにしながら、受講者個人の学びを深めようという意図なのでしょう。
研修転移マトリックス
前述の表で、「研修前」にもやるべき事があるのを意外に思われた方もいるかもしれません。これは米国の研究者、メアリー・ブロードらが提唱する「転移マトリックス(The Transfer matrix)」に基づくものです。下表の1から9の数字は使用度・影響度の優先順位を表し、1がもっとも優先順位が高く9が低いことを表しています。すなわち、研修前、研修中、研修後を通してもっとも影響力が高いのは研修前のマネージャー(受講者の上司)のはたらきかけであることが示唆されています。
もっとも、この評価の数字が米国の研修講師のインタビューに基づくものであるとするならば、若干理解に苦しむ記述もあります。たとえば、研修前の講師の影響度は2と高くなっていますが、実際のところは研修前に講師が受講者にはたらきかけるのは難しいものです。また、研修中の講師の影響度は4と中程度ですが、これも自らの存在意義を否定するようなもので、なぜ湖のような解答がされたかは不明です。したがって、この研究結果は一定の批判意識を持ってみるべきでしょう。
研修前 | 研修中 | 研修後 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
役割者 | 使用度 | 影響度 | 使用度 | 影響度 | 使用度 | 影響度 |
マネージャー |
5 |
1 |
6 |
8 |
9 |
3 |
講師 |
2 |
2 |
1 |
4 |
7 |
9 |
受講者 |
8 |
7 |
3 |
5 |
4 |
6 |