こんにちは。シンメトリー・ジャパン代表の木田知廣です。
「エンゲージメント・サーベイを導入したい…」。そんな企業が増えていますが、そこには意外なリスクがあるのをご存じでしょうか?
というのは、エンゲージメント・サーベイを導入すると、社員の期待値が高まります。「こういう調査をしているってことは、会社はこれから変わっていくのだろう」と。ところが、単にエンゲージメント・サーベイをしただけで、その後の施策がないと、「ガッカリ感」が広まってしまうのです。
実はエンゲージメント・サーベイ導入のキモは、「逆算」です。エンゲージメントを高める施策を考えながら、「これを数値として把握するには、どんなサーベイが?」と考えることにより、効果的な導入ができるのです。
私たちはそのための具体的な方法論をコンサルティングで提供しています。ご興味を持たれた方は、下記の問合せよりご連絡ください。
シンメトリー・ジャパン代表
P.S.「逆算法は分かったけれど、最初の仮説はどう立てるの?」というご質問をいただきました。これに答える「エンゲージメントUPマッチングシートβ」を作成しましたので、下記よりダウンロード下さい。
エンゲージメント・サーベイ導入のステップ
エンゲージメント・サーベイの前にまずは直感的把握をする
エンゲージメント・サーベイ導入の第一歩は、現場のヒヤリングです。サーベイ導入を担当する方ならば、直感的に社員のエンゲージメントの状況はお分かりでしょう。これを確認するために、現場のカギとなるマネージャーにさりげなく状況を聞くのです。「なんだか、離職率が上がっているんだけど、心当たりってありますか?」、「若手社員の顔色が暗いような気がするんだけど、変えるためのアイデアってありますか?」など、自身の直感的な仮説を検証して、いわば「アタリ」を付けておくのです。
もちろん、ヒヤリングの対象は経営者にもおよびます。この場合、自身の仮説を検証すると言うよりも、経営者はエンゲージメントについてどう考えているか、エンゲージメントを上げるためにどの様な施策ならば納得してもらえるかを確認しておきます。
なお、この直感的な仮説が思いつかないという場合は、「エンゲージメントを高める8項目」を参考にして下さい。「この8項目の中のどれがかけているから、ウチの会社はエンゲージメントが低いのだろう?」と考えるヒントを与えてくれます。一方で、あまり参考にならないのが、Q-12 (キュートゥエレブ)と呼ばれる質問項目。エンゲージメントの測定のための12の質問で、世界的な調査会社が提唱しているものですが…質問項目がいかにも外国風。たとえば「職場に親友がいる (I have a best friend at work.)」と聞かれて、「イエス」と答えられる人が何%ぐらいいるでしょう?あるいは、この項目のスコアが低かった場合、「じゃあ、親友を作るような取り組みをするか」とはなりません。もちろん、様々な文化の国を統合して調査するためには有効なのでしょうが、こと日本企業におけるエンゲージメントを考える場合は、多少の(多大な?)読み替えが必要です。
エンゲージメント・サーベイの設計
上述の直感的理解を数値で把握するために、エンゲージメント・サーベイを設計します。サーベイの結果、「やっぱりそうだよな」という数値が出れば、その後のエンゲージメントを高める施策の実施を社内で合意をとるのが簡単になります。その際、忘れてならないのが、社員の「生の声」とでも言うべきコメント欄を設けること。数字からだけでは、温度感というか、実際に社員が何を考えているかは意外と伝わってこないものです。むしろ、コメント欄に書かれた文字からこそ、社員の今抱えている悩みや不安、もちろん満足度も見えてくるものです。しかも、エンゲージメント・サーベイを継続的に行った場合、社内のちょっとした変化はコメント欄に現れます。「あれ?ひょっとして、ウチの会社は今…」とアンテナを立てるためにも社員のコメントは重要です。
また、意外と迷うのが、エンゲージメント・サーベイの範囲。大きい組織では、いきなり全社に導入が難しい場合もあるでしょう。そのような場合、一部の階層(課長クラス、部長クラス)や一部の事業部にテスト的に導入することもあり得ます。
エンゲージメント・サーベイプラットフォームの選定
上述の設計とともに、エンゲージメント・サーベイのプラットフォーム選択を行います。ここでのポイントは、社員側の視点、会社側の視点の両方を持つことです。社員側の視点に関しては、「匿名性が担保されている」と感じてもらうことが重要です。せっかくエンゲージメント・サーベイを実施したのに、「こういうのは、誰が何を書いているか、会社側がチェックしているんだよ」と思われてしまっては元も子もありません。そのためにも外部プラットフォームを使うべきです。
一方で会社の視点からは、分析の切り口の豊富さがポイントになります。単純にアンケートを集計するだけでなく、グループをまとめたり、深掘りするなどの機能があるかがチェックポイントになります。
エンゲージメント・サーベイの実施
準備ができたらエンゲージメント・サーベイを実施します。具体的には、プラットフォームから社員にメールを送信して、ウェブ上のアンケート形式で回答してもらうことになります。なお、一口にサーベイと言っても、「パルス型」、「センサス型」に分けて実施する場合もあります。パルス型は簡単なアンケートを頻度高く、たとえば毎月1回行うものです。ちなみにパルスは日本語訳すると「脈拍」ですから、組織の脈拍を測るイメージを持つと分かりやすいでしょう。一方のセンサス型は、年間1回などの低頻度で、その分設問の分量が多いものです。
この二つは「どちらが良い」というものではなく、併用することによってより精緻な組織診断ができます。
たとえば、エンゲージメント・サーベイの目的のひとつである離職防止を考えてみましょう。これは、年1回のサーベイでは対応できないのは明らかでしょう。むしろ、最低月1回はパルスサーベイで状況をチェックし、良くない兆候があれば介入していく必要があります。一方で、組織文化など組織全体にわたるものに関しては、変わるのに時間がかかるので毎月サーベイを行ったとしても、それほど意味はありません。むしろ、「いろいろ施策を打ってる割には、組織文化が変わらない」と失望感すら広がってしまうかもしれません。このような場合はセンサス型のサーベイが適切です。年に1回、「定点観測」として組織文化を診断するのです。
なお、回答率を高めるためには経営者や人事部門からのはたらきかけが有効です。仕事が忙しい人、あるいはなんのためにエンゲージメント・サーベイを行っているか分かっていない人は、「めんどくさい」とほったらかしにしてしまうこともままあります。そのような場合、経営層から「これは重要だ」とのメッセージを発信する必要があります。また、この反応率を上げるという観点では、スマホでもサーベイに答えられるようにすることも重要です。とくに頻度が高いパルス型のサーベイは、「スマホで空き時間にパッと答えられる」ことで回答率が高まります。
エンゲージメント・サーベイの分析
エンゲージメント・サーベイの入力が完了したら、分析です。もちろんここでは、最初に立てた直感的な仮説を検証します。そして、これはしばしば起こることですが、直感だけでは把握できなかったエンゲージメント低下の原因を把握することが重要です。たとえば、直感では「IT危機など十分でなく、そのせいで残業が多いことが問題だ」と考えたとしましょう。このような目に見える項目は、比較的把握しやすいものです。
ところが、実際にエンゲージメント・サーベイを実施してみると、実は「会社の戦略が見えない」ことに不満を感じていることが発見できることもあります。このようなものは、社員が現場で感じていることですし、なかなか目で見て把握することはできませんから、エンゲージメント・サーベイによってはじめて分かるという場合が多いものです。
エンゲージメント・サーベイ結果報告
分析が終わったら、その結果をサーベイに協力してくれた社員に対して報告<フィードバック>します。「こんな結果が出た」は当然ですが、「この結果を経営陣はこう解釈している」、「だからこのようなアクションプランをとる」と、本気で社員エンゲージメントを高めることに取り組むことを示す絶好のチャンスです。はじめてエンゲージメント・サーベイを導入した場合、イベント的に「報告会」を行っても良いですし、文章として配布することで「ウチの会社は情報をオープンにするんだ」とアピールすることもできます。
エンゲージメント向上施策の実施
最後のステップはエンゲージメント向上施策の実施です。冒頭に紹介した「逆算」の考え方に沿えば、実はエンゲージメント・サーベイを導入する前、ここまである程度視野において考えておくべきです。つまり、「エンゲージメント・サーベイをやってみたらこんな結果だった。では、何をやったらいい?うーむ…」ではなく、「今の状況でエンゲージメントを高めるためには、○○の施策が必要だろう。確認するためにエンゲージメント・サーベイをやってみよう」という発想です。
また、エンゲージメント・サーベイのスコアが低いからと言って、全てに手を打つ必要はありません。大事なのは、「スコアが低く、かつ、従業員が重視していること」です。たとえば先ほどの例でいえば、「勤務時間が長い」ことに対して不満があったとしましょう。もちろん対処すべきですが、仮にこの項目を重要視している社員が少なければ、優先順位は後回しです。なぜならば、社員が重視していない項目の改善を取り組んでも、エンゲージメントは高まらないからです。それどころか、「経営陣のやっていることはトンチンカンだなぁ。そうじゃなくてさ…」と、かえってシラけてしまう人すら出るかもしれません。
逆に、「会社の戦略が見えない」ことへの不満が高く、かつ従業員がそれを重視している場合、真っ先に取り組むべきです。たとえば、経営陣から改めて戦略を説明する。「エンゲージメントUP研修」の一環として、第一線の管理職、課長クラスの戦略説明力を高める、などが考えられます。