「エシカル・ジレンマ (ethical dilemma)」という言葉を聞いたことがあるだろうか?

直訳すると、「倫理的な葛藤」であるが、要するに、ある状況に直面したときに、二つの選択肢の間で悩むことを指す。ただ、「エシカル」という言葉に込められたのは、その二つの選択肢のどちらを選ぶかにより自身の倫理観が問われるような状況と言うことである。

日本人にはなかなかなじみのない言葉だし、概念であるが、ビジネススクールのエッセイ(入試のための小論文)では聞かれることも多く、欧米のリーダーシップ開発のなかでは重要なイシューであると認識されているようだ。

今回読んだ本では、この「エシカル・ジレンマ」を正面から取り扱って、その構造と対処方法を明らかにしている。

ジョセフ・L. バダラッコ著、「決定的瞬間」の思考法―キャリアとリーダーシップを磨くために

評価は

★★★★☆ (購入して読む価値あり)

著者は、「エシカル・ジレンマ」を、自分の価値観・アイデンティティを確認・構築する(著書中では「自我を現す」、「自我を検証する」、「自我を形成する」というキーワードを使っている)チャンスとして、リーダーシップ開発にとって重要なものであると捉えている。

「真実の瞬間」への対処方法は、状況によって一様ではないものの、基本的な質問を自分に投げかけることによってとるべき選択肢が見えてくると主張している。

具体的には、個人として答えるべき問いとしてはニーチェを引用しながら、「ほんとうの自分になれ」を底流とし、一方、組織人として答えるべき問いにはマキャベリを援用しながら、「君は勝つためにプレイしているのか」を自らに問えとの主張だ。

本の前半は、主にニーチェ的な観点からの解説がなされており、正直言って説教くさいし退屈。ただ、後半は、「ほんとうの自分になれ」を組織のなかで実現するためには、マキャベリ的な行動も必要とといていて、示唆に富んでいる。

とくに、企業の倫理的な行動として有名なジョンソン・エンド・ジョンソンのタイレノール事件を別の見方で解説しいるところは事例として秀逸であった。

リーダーとして自分自身の価値観を問われる状況に直面したことがある方なら、参考になる点が多いのではなかろうか。

ちなみに、ビジネススクールへの出願を考えている方にも一読をお薦めする。冒頭に述べたとおり、「エシカル・ジレンマ」という概念は日本人にはなか なかなじみがないので、欧米人の目を通した「エシカル・ジレンマ」を理解するための手引きとしても使えるのではないだろうか。ひとつだけヒントを述べる と、欧米人にとってのエシカル・ジレンマは、”right vs. wrong”ではなく、”right vs. right”ということらしい。