「リモートワークで社員のエンゲージメントが落ちてしまった。どうしたらいいか…」。そんな悩みを持つ方にお勧めが柴田彰先生のご著書、「エンゲージメント経営」です。ちなみに柴田先生は世界的な人材紹介会社のコーン・フェリーのシニアクライアントパートナーを務めていらっしゃって、コーンフェリーが行ったリサーチが載っているのが本書の魅力です。

満足度とは180度異なる社員エンゲージメント

まずはエンゲージメントの定義から著者の柴田彰先生は、

自分が所属する組織と、自分の仕事に熱意を持って、自発的に貢献しようとする社員の意欲

であると説きます。

それって、いわゆる社員満足度なんじゃない?と思うかもしれませんが、「似て非なるもの」だそうです。なぜならば、

社員満足度は、「社員が会社に満足しているか?」という社員から見た一方向的なものに対して、社員エンゲージメントは会社と社員の双方向的な関係を問うものである。社員エンゲージメントを簡単な問いに分解してみると、「会社は社員が期待する事を提供できているか?」「社員が仕事に幸せを感じて意欲的に取り組めているか?」となり、極めて双方向性が高いことがわかる。

とのこと。

この双方向性に加え、社員はどの観点で仕事に満足度を感じているのか、もポイントになると思いました。たとえば、「私は楽な仕事が好きなんです」という社員がいたとしましょう。その人が、「今の仕事、楽でよかった。満足!」と言っていたとしても、決して仕事の成果が上がるわけではないでしょう。

だとしたら、企業の業績向上のドライバーとして、社員満足度を測定するのは意味がないことになります。このような問題意識から、エンゲージメントに注目が集まっているのでしょう。

ダイバーシティにより必要とされるエンゲージメント

そして、これは、従業員の価値観の多様化<ダイバーシティ>と密接な関係があるのでしょう。昔の日本企業であれば、価値観が単一で、「一生懸命働いて会社に尽くすのが当たり前」でした。このような中では、従業員の満足度は意味を持ちます。

しかし、ダイバーシティの世界では、上述の「楽な仕事が好き」のような人が増えており、エンゲージメントの重要性が増しているのだと思います。

も、前述の日本企業の事情に目を配っています。それが、第1章の「日本の会社が、社員の幸せを真剣に考えてこなかったわけ」というパートです。

ここでは日本企業の特殊な慣行として、新卒一括採用が取りあげられています。これはこれで意味があって、

成長局面においては、基本的には会社が作るもの、提供するサービスが劇的に変化することはなく、漸次の改善によってコスト効率と品質の向上を目指すのが経営の基本となる。したがって、人材の習熟度が極めて大事な成功因子となり、できるだけ自社経験が長い社員を抱えたほうがよいという判断が成り立つ。

と説明されます。

しかし、このような慣行は、「ムラ社会」に近いものを生み出します。そしてムラ社会においては、明確な序列付けがなされ、下位のもの、会社で言えば社員、に対する配慮は必要とされません。これが、日本企業におけるエンゲージメント軽視の傾向の根源であると説きます。

部下への仕事の与え方でエンゲージメントが高まる

では、どうやってエンゲージメントを高めることができるか?前述の新卒の一括採用は、少なくとも短期的には解消されなさそうなので、現場でできる知恵が求められます。

これは、部下に対する仕事の与え方がひとつのヒントになるとのこと。その際には部下のやる気の源泉にマッチした仕事を与えるほうが好いのはいうまでもありません。

そして、部下の動機の源泉を見抜くために、デイビッド・マクレランド教授の欲求理論、Mccleland Motivation Theoryが使われています。すなわち、下記3つの欲求で人間のやる気は説明できるとの考え方です。

達成動機:目に見える目標を達成したい、他者をしのぎたい、新しいことを成し遂げたい親和動機:他者と良好な関係を築きたい、よりよい人間関係を維持したい、衝突や別離を避けたい

パワー動機:他者や社会に対して影響を与えたい、高い地位を得て人の羨望を得たい

たとえば、達成動機が高い部下であれば、

簡単に達成可能なものよりも、達成に向けて相応の努力や苦労が必要とされる目標にこそ言い知れぬ喜びを感じるという、ある種マゾヒスティックな成功を持っている

わけなので、そのような仕事を与えてあげよう、との提言です。

これはこれで分かりますが、現実においては、欲求の源泉がたった3種類しかないと、部下への仕事の与え方で困ることもあります。ここは、ほかの欲求理論、たとえば選択理論やEPPSなどを利用して、より細かく部下の欲求を見抜くほうが効果的と感じました。

エンゲージメントを高める経営者の役割

従業員エンゲージメントを高めるためには、経営者の役割が重要であるのは言うまでもありません。そして、よい経営者になるためには、下記6つの経験をする必要があるというのが著者の調査結果です。

  1. 結果責任を負う:強いプレッシャーの下で、自身で判断し、判断に伴う結果責任を負う
  2. 事業の理解:事業の構造・バリューチェーン全体をミクロ・マクロ両面から理解する
  3. 新しいチャレンジ:経験のない、新しい領域・課題について、自ら戦略・計画をねり、力強く推進する
  4. タフ・ネゴシエーション:権限がおよばない関係者に対し、粘り強く交渉・対応し、目的を達成する
  5. 危機対応:極度のスピードが求められたり、強いストレスが伴う状況で適切に対応する
  6. 多様性の理解:バックグラウンドが異なる相手に対し、多様性を理解しつつ、目的を達成する

このような経験をした結果、優れたリーダーになった人は下記の特徴を持っています。

  1. リーダーシップ・ドライバー:リーダーシップをとることへの意欲・動機
  2. 認識:自分自身と、周囲の状況に対する客観的把握
  3. ラーニング・アジリティ:経験から学ぶ姿勢
    • 複雑性、新規性への好奇心
    • 他者との協働への嗜好性
    • 変化の許容性
    • 結果への執着度
  4. リーダーとしての性向:リーダーとしての成功に結びつく性格的な特徴
    • 大局観
    • 個人的な長期目標へのこだわり
    • 曖昧さの許容性
    • リーダーの責務を引き受ける積極性
    • 南極での楽観性
  5. 抽象化思考:複数の事実や情報に共通する法則を導き出す思考力
  6. 阻害リスク:性格上の阻害要因

そして、リーダーのマネジメント行動は、下記の6つに分かれるとのこと。

  • 指示命令型(Coercive):細かい指示命令に基づき、組織や人を動かすスタイル
  • ビジョン型(Authoritative):ビジョンを示し、目的意識を共有し、組織のベクトルをあわせるスタイル
  • 関係重視型(Affiliative):人と人とのつながりや調和を重視するスタイル
  • 民主型(Democratic):メンバーを意志決定に参画させ、コミットメントを高めるスタイル
  • 率先型(Pacesetting):自ら率先して行動し、組織を引っ張るスタイル
  • 育成型(Coaching):メンバーの指導育成やコーチングに注力するスタイル
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