「せっかく入社した若手が3年間で辞めてしまう…」。そんな悩みをお持ちの方がチェックしたいのが尾形真実哉先生のご著書「組織になじませる力~オンボーディングが新卒・中途の離職を防ぐ」です。 今回は、新卒入社の人が直面する「リアリティ・ショック」についてまとめます。
オンボーディングの必要性~新卒入社のリアリティ・ショック
まず、リアリティ・ショックとは何か。著者の尾形真実哉先生は、海外の研究者ディーンの生家を使って下記のように紹介しています。
組織に入る前の期待と組織に入った後の認識の間の相違といった、横暴社から正社員への推移によって生じる認識の変化
こう聞くと、「あー、あるある」と思いがちですが、実際のところは新卒入社の人が直面するリアリティ・ショックはかなり複雑だそうです。具体的には、下記の多様性があるとのこと。
- 対象の多様性 (何に関する認識の相違か)
- 仕事
- 同僚・同期
- 組織
- 評価
- 構造の多様性 (認識の相違はポジティブかネガティブか)
- 期待の甘さ (事前の期待値が高すぎた)
- 肩透かし (現実がヌルすぎた)
- 専門職型 (予想以上にしんどい)
- 質的相違 (その後退職に至った人とそうではない人のちがいは)
- 解決における自己完結性 (個人で解決できる見込みが低いと離職につながりやすい)
- 正当化可能性 (会社から納得のいく説明がないと離職につながりやすい)
- 個人の将来への意味 (自分の将来にとっての意味が感じられないと離職につながりやすい)
- 発生時点の多様性 (どのタイミングで認識の相違が起こったか)
- プレエントリーリアリティ・ショック (入社前)
- エントリーリアリティ・ショック (入社時)
- ポストエントリーリアリティ・ショック (入社後)
- すりあわせ型リアリティ・ショック (入社2年目に改めて感じる)
- 遭遇型リアリティ・ショック (入社時にショックを受ける)
上記から、「肩透かし」を深掘りしてみましょう。これは、
自分自身を鍛えて欲しいという厳しさへの期待が裏切られたときに生じるもの
と著者の尾形真実哉先生は解説されています。新しいタイプのリアリティ・ショックだそうで、読者としては「ホントにこんな人いるのかな?」と思いますが、本書の41pに掲載された「生の声」はかなりリアルです。
実はネガティブだけではないリアリティ・ショック
ここまで、リアリティ・ショックのネガティブな側面を述べてきましたが、著者の尾形真実哉先生は、リアリティ・ショックは一概に悪いことばかりではないとのスタンスを取られています。具体的には、書き4つのポジティブな効果も見込めるとのこと。
- 覚醒効果 (学生から社会人に切り替わる気づき)
- 学習促進効果 (乗り越えるために学習へのやる気が高まる)
- 人的ネットワーク広範化効果 (誰かの力を借りるため、多くの人とコミュニケーションをとる)
- メンタル効果 (メンタル・タフネスが養われる)
この中から、人的ネットワーク広範化効果を見てみましょう。実はOJTにおいては、新たに組織に参画した人の社内ネットワークを広げることが重要であるとの指摘は、多方面からなされています。もちろん、上司やOJT担当者、オンボーディング・メンターなどが広げてあげるのも重要ですが、新卒入社した社員自らも広げる努力をすると、より効果的でしょう。
リアリティ・ショックを受けた人は、悩みに直面します。この悩みの解決のために、
知識や情報を持つ上司や同僚にコンタクトを取り、教えを乞うようになると、組織内での人的ネットワークは広範化していきます。さらには、尊敬できる上司やメンターとの出会いなど、良質な人間関係を構築できる機会も増えます。
というメリットがあるとのことで、読者としても納得感があります。
リモートワークによるリアリティ・ショックの「素通り」
ここまで一般論でしたが、ここからはコロナ禍におけるリモートワークの影響を取り上げます。実はリモートワークの影響は、新卒入社の人が「リアリティ・ショックを感じない」という結果をもたらしました。著者の尾形真実哉先生はテレワークが全くない新卒採用者とほぼテレワークの新卒採用者の意識調査をされているので、調査結果の数値は本書の62pをご覧下さい。
ここから言えることは、下記2点です。第1は、リモートワークが多くなる場合、リアリティ・ショックのポジティブな効果も発生していないことが想定されるので、そのような人材の育成にはより注意をすべきということです。覚醒効果も学習促進効果もないとしたら、ひょっとしたらいまだに「学生気分」で新卒採用者もいるかもしれません。そんな人に「これからは違うぞ」と思わせるためには、オンボーディング研修などの仕掛けが必要でしょう。
第2に注意すべき点は、リモートワークから出社に切り替わった場合の「ソフトランディング」です。入社2年目、3年目など、ある程度業務が分かってきた中でリアリティ・ショックを迎えるという体験は、これまで誰も経験したことがないものです。その際、新卒採用者がどのような反応を見せるか、そして、それに対してどのように対応すべきかは、上司、OJT担当者、オンボーディング・メンターのみならず、人事部をはじめ全社的に考えるべきものでしょう。
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