「せっかく入社した若手が3年間で辞めてしまう…」。そんな悩みをお持ちの方がチェックしたいのが尾形真実哉先生のご著書「組織になじませる力~オンボーディングが新卒・中途の離職を防ぐ」です。 今回は、前回紹介した新卒入社の「リアリティ・ショック」への対応についてまとめます。

入社前から始まっているオンボーディング

新卒採用者のリアリティ・ショックのネガティブ面を緩和するために、著者の尾形真実哉先生は下記を提唱されています。

  • 入社前
    • 正確な情報提供 (内定前=採用プロセス)
      • RJP (Realistic Job Preview:現実主義的な職務の事前提供)
      • 日本におけるRJPの援用用可能性と対策
      • 「正確な情報」の意義
      • 情報の正確性以外に求められる要素
    • トランジションスロープをかける (内定後)
      • 内定者インターンシップの実施
      • 入社前研修
  • 入社後
    • 相談窓口などのケアリング施策
    • 適応支援施策
    • 教育制度
    • 再動機づけ施策
    • リアリティ・ショックで成長を促すショック療法

この中から、RJPについて詳しく解説します。これは米国の産業心理学者ワナウスが提唱したもので、入社前に職場の現実を見せることで、過度に高い期待値を抱かせないように試用という取り組みです。実験として、ある会社2社の就職希望者に対して、2種類の異なる動画を見せました。一つは、採用活動でよくあるもので、キラキラとしているとでもいうか、仕事の良い面ばかりを伝えるものです。そしてもう一つは、実際の職場に近いもので、ルーチン作業はあるし、監督者によるチェックで自由がないなどを明らかにしたものです。

結果は想像通りで、キラキラ動画を見たグループは仕事への期待値が高まった分、実際に入社してからの期待値はガクンと下がったのです。ところが、もう一つの実際の現場に近い動画を見たグループは、期待値は下がったもののその下がり具合は大きくなく、リアリティ・ショックを避けることができたと検証されたのです。研究自体は1975年と古いものですし、新卒の採用活動では、現実を見せたらその後入社しなくなってしまうのではないかという懸念もありますが、リアリティ・ショックを避ける方法としては納得です。

オンボーディングにおける「設計されたショック療法」

新卒採用のオンボーディングの中から、もう一つ「リアリティ・ショックで成長を促す」も見てみましょう。まず、前回の書評でも取り上げたとおり、リアリティ・ショックにはポジティブな側面もあるというのが著者の尾形真実哉先生のスタンスです。

学生から社会人への移行では、意向者に学生時代のアイデンティティーや若者文化からの脱却が求められます。診察採用者をリアリティ・ショックに遭遇させることによって、学生時代の自己イメージやアイデンティティーを破壊し、社会人として求められる新たな考え方や行動を身に付けさせる、いわゆる「ショック療法」も効果的だということです。

とのこと。これは、実際に新卒社員を迎え入れたことがある人ならば納得でしょう。いつまでも学生気分が抜けないようでは困りますから、「ショック療法」はアリです。

ただ、その際に注意すべきは、離職につながるようなリアリティ・ショックは避けるべきということです。無理難題をふっかけたり、新卒入社した人が自らの力で解決できないような職場環境は適切ではありません。すなわち、単純な「ショック療法」ではなく、「設計されたショック療法」が必要になります。この点に関しては本書86pに詳しい記載があるので、ご興味がある方はご覧下さい。

新入社員リモート研修の効果

新卒採用者のオンボーディングに当たっては、採用が重要な役割を果たし、そこでは下記3つの要素が必要であると著者の尾形真実哉先生は説きます。

  1. 直面する適応課題を理解させる (知識の伝授)
  2. 同期とのつながり、同期意識を醸成させる (協働)
  3. 会社への愛着や信頼感を醸成させる

実はこの背後には、オンライン研修の効果を測定した調査があります。日本の上場企業3社(通信・人材・IT)を対象に、2020年度入社の新卒採用者518名(男性321名、女性196名、未回答1名)からのアンケート結果が下記となります(「非常に良く当てはまる」、「やや当てはまる」と答えた人の割合を%表示)。

質問内容 A社 B社 C社 3社平均
オンラインでの研修によって、仕事に必要な知識を身に付けることができた 85 80 78 81
オンラインでの研修によって、仕事に必要なスキルを身に付けることができた 77 72 85 78
オンラインでの研修によって、会社の文化や風土を理解することができた 67 73 62 67
オンラインでの研修によって、現在の自分自身に何が足りないのかを明確にすることができた 87 62 71 73
オンラインでの研修によって、仕事のモチベーションが高まった 70 63 73 69
オンラインでの研修は、自分の成長に大きく貢献した 79 63 78 73
オンラインでの研修によって、会社の同期と良質な関係性を構築することができた 52 70 55 59
オンラインでの研修によって、会社の同期との同期意識が芽生えた 50 61 58 56
オンラインでの研修を通じて、サポーティブな会社の姿勢を感じることができた 86 83 93 87
オンラインでの研修は、孤独感を強く感じる 40 45 43
研修は同期とともに対面で受講したい 86 55 78 73
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