職場がギスギスしていたり、チームワークが感じられなかったり…。そんな風に感じるときはあるものです。では、どうしたらいい?というのは難しい問題ですが、それを解決するヒントを与えてくれるのがエイミー・C・エドモンドソン教授の著書「チームが機能するとはどういうことか――「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ」です。著者のエドモンドソン先生はハーバード・ビジネススクールの教授。リーダーシップの分野では高名な方で、その論文には様々な賞が与えられているほど。加えて、Thinker50という世界的な経営思想家のランキングがありますが、そこに2011年から連続でランクインしています(2年に1回開催)。
キーワードは「チーミング」。これは、
協働するという「活動」を表す造語であり、組織が相互に絡み合った仕事を遂行するための、より柔軟な新しい方法を示している。
とのこと。これをベースに、下記の4つのリーダーシップ行動が本書では提唱されています。
学習するための骨組みを作る
職場において物事を「実行」するときの頭の使い方と「学習」するときのそれとは違うというのが、そもそもの問題意識です。たとえば、部下は当然部下なわけですが、こと「学習」という観点では、リーダーにとって部下は
大切なパートナーであり、待ち受ける困難を克服するために重要な意見をくれる
存在となります。このように、ものの見方を変えることがリーダーには必要だということです。
心理的に安全な場をつくる
心理的安全性は、
人びとが何か困ったことになるのではと不安に思うことなく自由に、関連する考えや感情を表現できる雰囲気
ということで、これがないと組織としての学習が進まないとされています。さらに著者は、この心理的安全性と責任を二つの軸で捉えて、その双方が高い状態を学習に最も適したLearning Zoneと位置づけています。逆に言うと、心理的安全が高くても責任が低いと快適(Comfort Zone)にとどまってしまうし、責任だけ重くて心理的安全がないと不安(Anxiety Zone)、そして双方が低いのが無関心(Apathy Zone)で、いずれも組織の成功はおぼつかないとのこと。
失敗から学ぶ
本書では失敗を 、
- 避けることのできる失敗
- 複雑な失敗
- 知的な失敗
の3種類に分け、それぞれの失敗に対し、
- 失敗に気づく
- 失敗を分析する
- 失敗を進展させる
という3段階のアプローチが提唱されています。たとえば、「複雑な失敗」であれば、
- 失敗を報告した人にはインセンティブを与える
- クロスファンクショナルなチームを招集しチェックする
- 危険を未然に防ぐしくみを導入する
という3段階です。
職業的、文化的な境界をつなぐ
「境界」は、要するに分断された人びとということで、たとえば一つの会社でも部署が違うと仲が悪い、なんてことが起こります。また欧米においては人種間の分断、宗教観の分断も往々にして起こるので、これらを乗り越えるのがチーミングのカギとのこと。そして、もう一つ面白いのは、職場における上限関係も「境界」と捉えていること。これを乗り越えるということは、上司と部下が一体になって学習を進める、ということなのでしょう。
ではそのためにリーダーは何をすべきかという提言の一つが、「上位の共通目標を設定する」ということ。目の前の仕事をこなすだけならばピラミッド型組織の上意下達が適しているわけですが、より上位の、もしくは大所高所の目標を立てると、上司と部下すらも一体となりやすいとのことです。
本当にリーダーができるの?
ということで、組織学習をベースとしながらリーダーの4つの講堂を紹介しましたが、それでも本書を読んで納得できなかったのが、「これ、現場のリーダーが本当にできるの?」という点。たとえば、「学習するための骨組みを作る」ためにリーダー自身がリフレーミング、すなわちものの見方を変えることが必要ですが、その具体的な方法論が、
このプロジェクトはこれまでにかかわったどんなプロジェクトとも違っていて、新たなアプローチを試し、そこから学習する胸の躍るような機会に満ちあふれている、と自分に言い聞かせる
のように、「自分に言い聞かせる」系のものしか示されていないのです。もちろんそれは無駄ではないのでしょうが、「自分に言い行かせる」ことがどの程度リフレーミングに役立つか、はなはだ疑問です。したがって、本書の提言を大前提としつつ、具体的な方法論は自分で考える必要があると思いました。
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