前編に続いて、石井遼介先生のご著書、「心理的安全性のつくりかた」をレビューします。
リーダーの心理的柔軟性が組織の心理的安全性を高める
著者の石井遼介先生は、心理的柔軟なリーダーが、組織の心理的安全性を高めると説きます。具体的には、
- 変えられないものを受け入れる
- 大切なものへ向かっていく
- それらをマインドフルに見分ける (気づいている)
が大事だとのこと。なんとなく、ラインホルト・ニーバーの言葉を思い浮かべますね。
守るべきものを守り抜く冷静さと、切り捨てるべきものを切り捨てる勇気と、そしていずれを守り、いずれを捨てるかを判断する知恵を与えたまえ
God, give us grace to accept with serenity the things that cannot be changed, courage to change the things that should be changed, and the wisdom to distinguish the one from the other.
というあれですね。それはともかく、より詳しく見ていきましょう。
マインドフルと言われても…
上述の心理的柔軟なリーダーの二番目の「大切なものへ向かっていく」を見ていきましょう。これは、
自分自身、あるいはチーム・組織として向かいたい方向や大切にしていることに、エンゲージ(従事)して行動に移していることです。この要素では「大切なこと」を言葉にする、言語化するというプロセスが重要です。
とのこと。つまりは、ミッション・ビジョン・バリューなどを明確にして、フォロワーに示していくことと理解しました。ただ、これが心理的柔軟性にどうつながるかは、ややわかりにくいと感じました。
では、心理的柔軟なリーダーの3番目、「マインドフルに見分ける」も見ていきましょう。マインドフルという言葉は、「マインドフルネス」という言葉が流行になっているところからきているのだと思いますが、これもかえって本質が分かりにくくなる説明の気がします。著者の石井遼介先生は、
「気づきに満ちている」状態、状況を客観的・俯瞰的に見ることができる状態
と説明していますが、であれば、そのまま「俯瞰的に見分ける」という説明の方がピンとくるような気がします。
後天的に身に付けるスタイルとしてのリーダーシップ
なお、前述の心理的柔軟なリーダーという大前提として、リーダーシップは後天的に身に付けることができるものである、という考えがあります。日本人はどうしても「リーダーシップは生まれ持ったもの」と思いがちですが、その否定です。同様に、日本人によくある「リーダーとは○○な人」というステレオタイプも否定しています。具体的には、下記4つのリーダーシップスタイルを使い分けることが重要であると提言しています。
- トランザクショナル(取引型)・リーダーシップ:アメとムチ・成果主義
- トランスフォーメーショナル(変革型)・リーダーシップ:ビジョンと啓発
- サーヴァント・リーダーシップ:メンバーの支え、活躍を支援する
- オーセンティック・リーダーシップ:自分らしさを発揮する・弱さも見せられる
そして、これらのスタイルはばらばらに存在しているわけではなく、相互に関係し合ってるとのこと。具体的には、
- トランザクショナルとトランスフォーメーショナルは補完関係にある
- トランスフォーメーショナルは、組織の効力感(有能感)に寄与し、サーヴァントは、組織の心理的安全性に寄与するが、良いリーダーは、変革型・サーヴァントの両方のリーダーシップを持っている※
- オーセンティック・リーダーシップの文脈でも、高いパフォーマンスを発揮しているリーダーは「本来の自己(Authentic Self)」「役割の自己(Role Self)」が高い次元で統合されている※2
とのことです。
※Schaubroeck, Peng, Cognition-based and affect-based trust as mediators of leader behavior influences on team performance (2011)
※2キーガン、レイヒー、なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか-すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」をつくる、(2017)
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