エンゲージメント・サーベイ導入の際にチェックしたい本、中原淳先生のご著書「サーベイ・フィードバック入門――「データと対話」で職場を変える技術 【これからの組織開発の教科書】」を書評します。

エンゲージメント・サーベイのコレクション効果

エンゲージメント・サーベイをうまく使えば組織変革につながるわけですが、そのメカニズムは実は大きく3つに分かれているというのが著者の中原淳先生の主張です。具体的には、ジョージ・ワシントン大学などで活躍されたデービッド・A・ナドラー教授の論文、”Feedback and Organization Development: Using Data-Based Methods.”で指摘されている二つの効果に加え、中原先生が独自に提唱している「外在化効果」で、全体としては下記となります。

  • コレクション効果
  • フィードバック効果
  • 外在化効果

この中から、コレクション効果をまずは解説します。コレクションは、趣味の世界の収集からイメージされるとおり、「集める」を意味する英単語です。すなわち、

サーベイによって職場・集団に「質問」を投げかけ、データを集めるという行為自体が、「人々が行動を変えるためのエナジー」を内包している

となります。もっとも、この「エナジー」という表現はやや楽観的すぎるでしょう。うまくいけば良き方向に組織を動かす原動力になるのを否定はしませんが、うまくいかないと「サーベイ・ガッカリ感の罠」に陥ってしまうので、要は諸刃の剣。毒にも薬にもなるという理解が正確です。

いずれにしても著者の中原淳先生は、

質問項目を決めること自体が、組織を変えることです。「問うこと」自体が、「組織を変える」ことの始まりなのです。そして、質問項目は「社員へのメッセージ」なのです。

と提言されています。

これは脳科学の観点からも正しくて、UCLA医科大学准教授のロバート・マウラー氏は著書「脳が教える! 1つの習慣」の中で、下記の通り述べています。

質問は脳を目覚めさせ、喜ばせる。脳は、たとえばかばかしい質問だろうと奇妙な質問だろうと、質問を受け入れ、じっくり考えるのが好きなのだ。

エンゲージメント・サーベイのフィードバック効果

では、ナドラー教授の説くエンゲージメント・サーベイのフィードバック効果も解説しましょう。これは実はさらに下記の2つに細分化されます。

  • モチベーション機能
  • ディレクション機能

モチベーション機能とは、エンゲージメント・サーベイの結果が従業員にフィードバックされ、その内容を知ることで、「モノゴトを変えよう」という動機が人々の中に作られる機能です。もうひとつのディレクション機能は、その動機づけに方向性を与えると言ってもいいでしょう。自動車で言えば、モチベーション機能がエンジン、ディレクション機能がハンドルの役割です。

一方、注意しなければならないのはナドラー教授の提言の背景には、「組織とは生き物のように有機的に結合されたものである」との考え方です。より詳しくは「組織をオープンシステムに見立てる」というシステム理論で説明されます。詳しくは本書の86ページに譲りますが、もしこの全体自体が違うと、エンゲージメント・サーベイのモチベーション効果もディレクション効果もアヤシくなってしまうので、注意が必要と感じました。

エンゲージメント・サーベイの外在化効果

では次に、エンゲージメント・サーベイの外在化効果の解説にうつります。著者の中原淳先生は、

外在化効果とは、「職場で起こっている問題を個人の性質や資質に起因する属人的な問題であると考えること、すなわち『個人に対して問題の所在が帰属すること』を防止して、いったん問題と個人を切り離しておく効果」

と解説しています。ごく簡単にいえば、いい意味での「他人事化」であると理解しました。

組織の課題を話し合うとき、当事者はどうしても本音を言いにくいものです。「ウチの会社はなんでこんな状況なんだ?」と言うとき、人事の立場、営業の立場など「立場」があると、ついつい自己弁護に走ってしまいそうです。そこを、「いやいや、自分の意見じゃなくて、ホントかどうか分からないけどサーベイの結果によると」ということで、話しやすくなるのがこの外在化の本質であると理解しました。

ちなみにここでは「いい意味での」他人事と記載しましたが、完全に他人事でないのもポイントでしょう。著者の中原淳先生は「半身の当事者性」と言っていますが、組織にエンゲージを感じていながら、立場を離れて対話できるというのが組織の変革につながるのだと感じました。

中原淳著、サーベイ・フィードバック入門――「データと対話」で職場を変える技術 【これからの組織開発の教科書】その2
画像はアマゾンさんからお借りしました。

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