前編に続いて、世古詞一先生のご著書、「シリコンバレー式 最強の育て方 ― 人材マネジメントの新しい常識 1 on1ミーティング―」をレビューします。

1 on 1による人材育成

まずは、前回紹介した「1 on 1実践マップ」の中から、「目標設定/評価」を取り上げます。1 on 1が採り入れられた背景として、多くの日本企業において導入されている目標管理制度(MBO: Management By Objective)を代替する、あるいは補完するという位置づけがあります。であれば、この1 on 1における目標設定/評価は、最重要と言ってもいいでしょう。

そして、その際に忘れてならないのが、部下の「納得感」であると著者の世古詞一先生は説きます。

1 on 1を重ねていくことで、評価を自信を持って行えるようになります。なぜかというと、評価で最も大切なことは、「正しい評価」ではなく「評価される側の納得感」だからです。(中略)誤解を恐れずに言えば、マネジャーの仕事は「100%正しい評価」を行うことではなく、「部下の納得のいく評価」を行って育成につなげていくことです。

当然、目標設定においても納得感が重要ですが、そのために必要なのが「MGC目標作成法」です。これは、Must、Get、Canの頭文字をとったものです。つまり、

  • Must: 会社として行わなければならない目標
  • Get: 目標を通して部下が得られること
  • Can: 目標を達成できるという感覚

の3点セットで納得感を醸成するというものです。

1 on 1での具体的な会話例

理論的背景だけでなく、具体的な会話例が載っているのが本書の魅力です。上述の目標設定/評価の例を見てみましょう。まずは、Must、つまり会社として行わなければならない目標の説明です。この際、Why、つまり「なぜこの目標が必要なのか」を説明することが重要とのこと。具体的には下記のようなセリフになります。

なぜこの目標なのかというと、背景としては…

この目標の中身をもう少し具体的に言うと…

では次に、Getの会話例も見てみましょう。

「この目標を達成することで、○○さんは何が得られるでしょうか?(たくさん洗い出して実感させる)」

「この目標をやらないことで○○さんが失うものは何でしょうか?(実感レベルまで)」

なお、ここでは「目標ありき」でそこから得られるものを部下に考えてもらうという流れですが、実際の現場では部下の強みを把握した上で、「それを伸ばすために仕事を割り振っている」という考えで臨むと効果的です。ここら辺は、松尾睦先生の「部下の強みを引き出す 経験学習リーダーシップ」に詳しく解説されているので、本書と合わせてチェックすることをお勧めします。この考えに基づくと、上述の会話例の二番目、「失うものは何でしょうか?」という問いかけは意味がない、というか人材育成ではかえって害があることになります。

ちなみに、現実のビジネスの世界では、マネジャーにとっても「上から振ってきた目標がトンデモナイものだった」と言うことはよくあります。 これによって、上述のMustとGetのどちらに重きを置くかを使い分けても良いでしょう。上から振ってきた目標が合理的なものであればMustをしっかりと説明し、そこから部下の視点を大所高所へ引き上げる会話ができます。

一方で、目標がトンデモナイものの場合には、「目標は目標として頑張ってもらわないといけないんだけど、そこから○○さんが得られるスキルは…」という説明になるでしょう。

1 on 1が評価を置き換える?

ここまで、1 on 1が評価にどう活かせるかを紹介してきました。ただ、本書にも紹介されているとおり、米国先端企業では評価そのものを廃止するところも出てきています。そもそも論として「何のために評価するのか」を考えると、SABCDのような序列をつけることが目的ではないでしょう。ましてや、ボーナスをどう配分するかを決めるために評価するのでもないはずです。

評価は、本来的には育成のためです。加えて、評価されることによって動機づけを高め、従業員の成果の向上に資することがねらいです。もしも、1 on 1によってこの育成と動機づけが達成できるのであれば、評価はいらないというのも納得です。

実務上は、評価のためにワークシートを埋めたり、部門ないでのすりあわせ、あるいは部下との面談などにかかる膨大な時間をなくすことができるのが、評価そのものを廃止することの大きなメリットとしてあげられます。この膨大な時間、決して組織としての成果につながるわけではないのですから、評価はやめてその分仕事に時間をまわそう、というのも納得感があります。

下記、本書で紹介されている年次評価を廃止した企業のリストです。

GEが「パフォーマンス・ディベロップメント」制度のもと年1回の人事評価を廃止

コカ・コーラが年次評価に変えてPerformance Enablementという1 on 1を導入

マイクロソフト

アクセンチュア

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